経済・雇用
朝日新聞社

移民開国 アジアに学ぶ外国人労働者受け入れの光と影

初出:朝日新聞2013年4月28日〜5月10日
WEB新書発売:2013年5月24日
朝日新聞

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 日本の人口は2008年をピークに下がり続け、30年後には一億人を切る見込み。消費者も労働者も減れば、経済の縮小は避けられない。人口減を避けるには、少子化を緩和するか外国人を迎え入れるかしかないが、子どもを持つかどうかは個人の自由にも関わり、対策は容易ではない。移民は経済的にはプラス面もあるが、社会の摩擦が増すというマイナス面もある。移民を受け入れるべきか、拒むべきか。日本はこれまで、この避けられない選択から目を背け、思考停止を続けていたように見える。日本以上の低出生率に直面し、積極的な移民受け入れに舵を切った韓国、外国人の割合が45%に高まるという予測が反発を買うシンガポール、介護労働がトラブルを呼ぶ台湾などの事例から、「移民開国」のリスクを展望する。

◇第1章 多文化に挑む韓国
◇第2章 シンガポール 依存と反発
◇第3章 台湾 住み込み介護19万人


第1章 多文化に挑む韓国

 韓国・ソウル近郊の京畿道安山(キョンギドアンサン)市。ここに、「多文化飲食街」と呼ばれる街がある。タイやインドネシアなど各国の料理店が母国語を使った看板を掲げ、銀行の外壁に、様々な通貨の為替レートの数字が躍る。
 安山市には、市の人口の約6%にあたる、約4万4千人の外国人が住み、韓国最大規模で外国人を雇用している産業団地がある。「多文化社会」は、韓国政府が外国人との共生を目指して掲げるスローガン。いわば、その最先端の地だ。


 全従業員90人中、外国人29人を雇う電子部品製造企業「ソルエータ」安山工場を訪ねた。バングラデシュ人のシャヒードさん(30)は3年前からここで働く。残業代込みで月給約200万ウォン(約18万円)。「仕送りは月60万ウォンもあれば十分。もっと長く働きたい」
 携帯電話に使う部品などの製造過程で薬品を使うため、独特の臭いの中で働く。韓国人の新卒者は嫌がる仕事だが、「苦にならない」と話す。
 シャヒードさんは、韓国が2004年8月に導入した雇用許可制度で入国した。東南・中央アジアの計15カ国を対象に単純労働者ビザを発給。国や業種ごとに受け入れ数を設定し、雇用を望む韓国企業に割り当てる。
 韓国統計庁によればこのビザで働く外国人は12年6月末現在、約24万5千人。このほか中国やロシアから来た朝鮮族の人々などを含めると、韓国在住の外国人は全人口の約2・8%にあたる約146万人。うち就業者は79万人に上る。
 韓国はもともと、日本と並んで在住外国人が少ない国だった。韓国法務省によると1990年当時はわずか5万人足らず、全人口の0・1%に過ぎなかった。
 20年余りの間に状況を一変させた最大の理由が、経済成長と少子高齢化だ。



◎少子高齢化 「開国」促す
 韓国で外国人労働者の大幅な導入に向けた最初のきっかけになったのは、1992年の中国との国交正常化だ。これを契機に、中国に住む朝鮮族が入ってくるようになった。12年6月現在、韓国に在住する外国人の32%が朝鮮族とされる。
 だが、それ以外の外国人をもっと多く受け入れるよう、韓国の背中を押したのは、世界最低水準と言われる超低出生率と急速に進む高齢化だった。
 韓国保健福祉省によれば2012年の出生率は1・3。15〜64歳の生産年齢人口は17年から減り始める。現在11%強を占める高齢者人口も35年には25%、60年には40%に達し、日本以上の高齢化社会となる。
 保健福祉省の担当者によると、1960年当時の韓国の出生率は6前後あったため、80年ごろまで政府は少子化を推奨していた。だが、「漢江(ハンガン)の奇跡」と呼ばれる予想を超える経済成長に成功した結果、核家族化が進み、急速な少子高齢化を招いた。「こんな事態を招くとは皮肉だ」とある政府関係者は語る。
 大学進学率が70%を超える高学歴社会は、ブルーカラーの労働力不足も招いている。外国人労働力をほしがる企業はまだまだ多い。
 雇用労働省は12年7月、雇用許可制度を改正した。これまで滞在可能期間は最大4年10カ月だったが、優秀な労働者に限り、一度出国した後に再び最大4年10カ月認めることにした。



◎閉鎖性打破へ政策次々
 ソウル市南部の加里峰洞(カリボンドン)。中国から来た朝鮮族が多く住むことで知られ、街には漢字とハングルがあふれる。この地域で在住外国人を支援するNGO「地球村サランナヌム」のシェルターを訪ねた・・・

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移民開国 アジアに学ぶ外国人労働者受け入れの光と影
216円(税込)

日本の人口は2008年をピークに下がり続け、30年後には一億人を切る見込み。消費者も労働者も減れば、経済の縮小は避けられない。人口減を避けるには、少子化を緩和するか外国人を迎え入れるかしかないが、子どもを持つかどうかは個人の自由にも関わり、対策は容易ではない。移民は経済的にはプラス面もあるが、社会の摩擦が増すというマイナス面もある。移民を受け入れるべきか、拒むべきか。日本はこれまで、この避けられない選択から目を背け、思考停止を続けていたように見える。日本以上の低出生率に直面し、積極的な移民受け入れに舵を切った韓国、外国人の割合が45%に高まるという予測が反発を買うシンガポール、介護労働がトラブルを呼ぶ台湾などの事例から、「移民開国」のリスクを展望する。[掲載]朝日新聞(2013年4月28日〜5月10日、9200字)

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