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朝日新聞社

三木谷レボリューション 新経連と楽天が目指すニューエコノミー

初出:2013年6月12日〜6月15日
WEB新書発売:2013年6月28日
朝日新聞

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 安倍晋三首相は成長戦略第三弾を発表した講演で、「インターネットによる市販薬の販売」「参院選からのネット選挙」の二つを解禁すると述べた。いずれもネット大手・楽天の会長兼社長、三木谷浩史氏率いる経済団体「新経済連盟」(新経連)が、以前から強く求めてきたテーマだった。「既得権益を保護する政策に反対する」と掲げる新経連には、多くのネット企業が参集、安倍政権とも、非常に近い関係にある。三木谷氏は、そして新経連は何を目指しているのか? インタビューを交えて活写するルポ。

◇第1章 解散3日後、安倍氏と急接近
◇第2章 新興経済団体、表舞台へ
◇第3章 ソフトバンクを追いかけて
◇第4章 規制撤廃へ執念、政治力を追求
◇第5章 突き進むほどに高まる壁
◇[インタビュー]三木谷氏が語る日本の憂い「計画資本主義では出遅れる」


第1章 解散3日後、安倍氏と急接近

 首相の安倍晋三は2013年6月5日、成長戦略第3弾を発表した都内での講演で、「インターネットによる市販薬の販売」「参院選からのネット選挙」の二つを「解禁する」と力を込めた。
 いずれも、ネット大手の楽天会長兼社長の三木谷浩史(48)率いる経済団体「新経済連盟」(新経連)が、強く求めてきたテーマだった。「既得権益を保護する政策に反対する」と掲げる新経連には、新興のネット企業が多く集まる。
 市販薬のネット販売には日本薬剤師会が反発し、厚生労働省の官僚や首相側近は、解禁となる市販薬を限定しようと妥協点を探った。だが、成長戦略を話し合う政府の産業競争力会議の民間議員でもある三木谷は、少しも譲らない。
 成長戦略の発表間際、三木谷は「市販薬すべての解禁が盛り込まれないと議員を辞める」と官邸に伝えた。「彼には手を焼かされた」と官邸関係者はいう。
 市販薬はネットショッピング「楽天市場」で買える。事業拡大につながる要望を働きかける三木谷には「我田引水」(財界幹部)との見方がつきまとう。
 安倍と三木谷。接点のなかった2人が会ったのは、衆院解散3日後の12年11月19日、自民党本部だった。
 三木谷はその日、安倍に強い危機感を吐露する。新興国で日本の電機メーカーは韓国勢に席巻され、自動車も急追されている――。
 安倍政権と新興の経済団体が急接近した瞬間だった。


第2章 新興経済団体、表舞台へ

 「そして音楽も」。楽天の三木谷浩史会長兼社長は、自社の電子書籍端末「コボ」を操作し、全世界で「江南スタイル」が大ヒットした韓国のラッパーPSY(サイ)の映像を映し出した。
 安倍晋三も知っていた。「ああ、これね」。2人で動画に見入っている。
 安倍と三木谷を引き合わせたのは、やり手の出版社トップとして知られる幻冬舎社長の見城徹(62)だった。
 安倍とは行きつけのスポーツクラブで顔見知りとなり、同社が出版した「約束の日 安倍晋三試論」はベストセラーになっていた。
 あまたの経済人が安倍との面談の仲介を頼み込んでくるなか、見城が三木谷を選んだのは理由がある。
 「インターネットというインフラで、彼は物販も金融も電子書籍もやっている。しかも純国産だ。彼みたいなのが経済をリードしないと日本は沈没する」
 約40分間の会談を、見城が振り返る。「あの日、2人は意気投合したんだ。終始2人で盛り上がり、俺は出る幕なしだったよ」
 約1カ月後の12月16日、自民党は大勝した。特別国会で首相に指名される前の同21日、安倍は、三木谷が代表理事を務める新経済連盟(新経連)との朝食会をホテルオークラで開いた。
 総選挙で圧勝した安倍が真っ先に会った経済団体のトップは、長らく自民党と二人三脚で歩んできた経団連会長の米倉弘昌ではなく、三木谷だった。
 新経連はITベンチャーの経営者らでつくる新興の経済団体で、三木谷は彼ら若き起業家たちを安倍に引き合わせたがった。セットしたのは再び見城だ。
 朝食会には、新経連の幹部が勢ぞろいした。新興企業の社長である彼らが自己紹介を兼ねつつ、「外遊の際は官民一体で売り込んで」「通貨危機から復活したサムスンに学ぶべきだ」と持論を披露する。
 うなずいて聞いていた安倍は、新経連が訴えてきたネット選挙の解禁を、その場で約束している。しかも夏の参院選でだ。
 新経連理事を務めるGMOインターネット会長兼社長の熊谷正寿(49)は、その翌22日、安倍からフェイスブックの友達申請が来たのに驚いた。「私以外にもみんなに。『総理になる人から友達申請か』とビックリした。安倍さんと新経連は波長があうな、と」。新経連監査役でフリービット社長の石田宏樹(40)も「ノリが近い」と驚いた。
 やがて三木谷は、産業競争力会議のメンバーに起用され、新経連理事を務めるフューチャーアーキテクト会長兼社長の金丸恭文(59)が、規制改革会議の委員に選ばれた。
 4月15日開かれた「新経済サミット」前夜祭では、駆けつけた安倍が「自民党はオールドエコノミーと組んでいる印象を持たれますが、それは違います」と語り、集まった若き起業家たちは拍手喝采した。


 政権とのつながりをビジネスに生かす「我田引水」と指摘される三木谷と新経連もまた、政権のイメージアップに利用されている。
 「それは間違いないでしょう」と見る新経連理事でサイバーエージェント社長の藤田晋(40)は、しかし、隔世の感でことの推移を受け止めている。
 「本当は解散するかもしれなかった団体です。それが、あれよあれよと……」
 前身の「eビジネス推進連合会」は、運営が行き詰まっていた。
 IT業界の両雄、ソフトバンク・ヤフーと楽天の対立が影を落としていた・・・

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