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朝日新聞社

アクセルを踏み続けるしかない 運転手たちの終わらない憂鬱

初出:2013年6月21日〜7月5日
WEB新書発売:2013年7月19日
朝日新聞

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 一睡もせず600キロを走りきるトラック、「時間通り」が重圧となるバス、走っても走ってもノルマに届かないタクシー……。昼夜を問わず、さまようように走る車両の運転席。その異空間でドライバーたちは憂鬱を抱え続けている。月に300時間以上働いても、手にする給料は数十万円。待ち受ける人を、乗せる人を喜ばせようとすればするほど、労働強化は進み、危険と隣り合わせになっていく。効率化がもたらすゆがんだ現状は打破できるのか。

第1章 〈トラック〉眠くても危なくても…/2秒「落ちて」追突、商品破損は自腹
第2章 〈バス〉「スピードを」背後に重圧/余裕ない日程表、速度計のぞく添乗員
第3章 〈タクシー〉厳しいノルマ、休憩できない/歩合制、収入安定せず 自腹で穴埋めも


第1章 〈トラック〉眠くても危なくても…/2秒「落ちて」追突、商品破損は自腹

 深夜の高速道路はトラックだらけだ。5月下旬、埼玉県の運送会社に勤める男性運転手(51)がノンストップでトラックを走らせていた。600キロを時速90キロで7時間弱。これまで幾度となく往復し、危険を知り尽くす。「下りカーブが危ない」。男性がつぶやいた。荷物の重さで自然とスピードが出てしまうのだ。
 自宅に帰れるのは、2週間に1回。運輸大手の下請けで、月曜日の夕方に出社し、荷を自分で積み込んで深夜に出発。夜通し走って翌日の早朝に関西で荷物を下ろす。積み下ろしだけでも重労働だ。
 近くのコンビニにトラックを止め、運転席の後ろにある幅70センチのベッドで寝る。夕方にまた荷を積み込んで深夜に出発。次の日の早朝に関東で荷を下ろす。それを2週間ひたすらくり返す。
 埼玉県で妻と息子2人の4人暮らし。関東に戻っても積み込みに時間をとられて帰る暇がない。2週間後の土曜日にようやく帰宅、つかの間のだんらんを楽しむ。月曜日には2週間分の着替えを持って出る。小6の次男が甘えてくるのが少しつらい。
 出発して3時間ほど経った午前1時過ぎ、急に携帯電話をかけはじめた。同僚のトラックが車線をはみ出してフラフラしていた。「サービスエリアで休んで。事故るよ」
 国の基準では4時間運転したら30分の休みが求められている。だが自分はノンストップを貫く。途中の「ひと眠り」が、かえって「不眠」を呼び込むからだ。
 積み下ろし場所には全国からトラックが参集。30分遅れると、2時間は順番を待つ。その分、寝る時間が減る。寝不足で運転すれば、いずれ休憩が必要となる。そうすれば次の仕事が遅れ、さらに睡眠が短くなる。この連鎖におちいらないため、眠くても途中で止まらない。
 給料は歩合制。荷物1トンにつき2200円。月給は40万円ほど。50歳を過ぎ、疲れもたまる。運転を続けるのはなぜか。「生活のレベルを落としたくないから。少々危なくても仕方がない」。高校3年の長男の進学もひかえる。



◎「修理代弁償を」
 トラック運転手が事故を起こしやすいのは月曜日と木曜日の勤務だ。月曜日は、休日明けで仕事に体が慣れず、ついウトウト。木曜日は、連日の疲れがどっと出てくる頃だからだ。トラックの運転手だった男性(57)が追突事故を起こしたのも火曜日にかわってすぐ。2012年春、中央自動車道だった。
 前方にトラックがいた。眠くなって「落ちた」のは2秒ほど。気づいたときにはトラックが目前に迫り、自分のトラック前部がミシミシと音をたてて体が押しつぶされた・・・

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