【お知らせ】WEB新書は閉店しました。

社会・メディア
朝日新聞社

ベトナム戦争の影 「枯れ葉剤」が生態系を破壊し、いまも国民を苦しめる

初出:2013年5月5日〜7月10日
WEB新書発売:2013年7月26日
朝日新聞

このエントリーをはてなブックマークに追加

 戦争とはいえ、米国は史上初めて原子爆弾や枯れ葉剤をアジアの国々に投下した。ベトナム戦争時に大量散布した枯れ葉剤にはがんを発症させ、生殖機能にも影響するという猛毒ダイオキシンが含まれる。それが生態系を破壊し、戦後40年近く経た今もひ孫世代に障害をもたらしている。国内28カ所に残るダイオキシンの「ホットスポット」で遊ぶ子どもたち、海の森林マングローブの壊滅と再生への努力などを追いつつ、戦争の負の遺産が現在も消えないベトナムの困難を伝える。

◇第1章 枯れ葉剤の影、半世紀
◇第2章 隣にホットスポット
◇第3章 「海の森」損なわぬ養殖
◇第4章 傷痕、今も問い続ける
◇第5章 被害の子ども、3万人
◇第6章 よみがえる海の森


第1章 枯れ葉剤の影、半世紀 ベトナム、ひ孫世代にも障害

 高さ70センチほどの枯れた木の根元はすっかり黒ずんでいた。元々高さ20メートルはあっただろう。半世紀前のベトナム戦争で米軍がまいた枯れ葉剤を浴び、根元だけになった。枯れ葉剤被害の「記念碑」として残されている。戦争は最大の環境破壊だ。終戦から40年近く経ったベトナムを2013年春、訪ねた。どこまで回復したのか。


 ベトナム最大の都市・ホーチミン市中心部から約50キロ。この「記念碑」があるカンザー県の広大なマングローブ林は、米軍と戦った南ベトナム解放民族戦線の兵士たちの拠点だった。米軍はマングローブ林に潜むゲリラに手を焼き、枯れ葉剤を史上初めて実戦で大量に使った。多くは有機塩素系の除草剤で、猛毒のダイオキシンが含まれていた。
 米国の研究によると、枯れ葉剤はベトナム国内の263万ヘクタールに散布され、約366キログラムのダイオキシンが放出されたと推定されている。住民のがん発症や、赤ちゃんの先天的な障害が多発した。結合双生児として生まれ、ホーチミン市で分離手術を受けたグエン・ベトさん(2007年死去)、ドクさん(32)の障害も枯れ葉剤の影響とみられる。
 ダイオキシンは生殖機能に影響を及ぼし、世代を超え障害や病気を引き起こす危険性が指摘されている。ベトナム政府の支援を受ける「枯れ葉剤/ダイオキシン被害者協会」(VAVA)によると、枯れ葉剤の影響とされる後遺症がある人は国内で約300万人以上。12年にはひ孫に当たる「第4世代」の赤ちゃんの障害が報告されたという。

◎ホットスポットが遊び場
 枯れ葉剤被害者のひとりを訪ねた。ベトナム中部の都市、ダナンで暮らすチャン・ティ・レイ・フェンさん(29)。生まれた時からずっと寝たきりだ。細い脚は曲がったまま。VAVAの調査で、枯れ葉剤による被害者として認められている。
 「いろいろな病院に行ったけれど治療はできなかった」。母親のタンさん(56)は目を伏せた。
 自宅から車で10分ほどのところにダナン国際空港がある。戦争当時、米軍最大の出撃拠点だった。保管していた枯れ葉剤が漏れ出たり、散布した軍用機を洗った水が染みこんだりして汚染された。09年の調査で、土壌から1グラム当たり約2万ピコグラムのダイオキシンが検出された地点もあった。ベトナムや日本の環境基準の20倍近い。
 父親のトォアンさん(62)とタンさんは、空港に隣接する池の魚を食べてきた。魚からは高濃度のダイオキシンが検出された。空港敷地から池へ流れ込み、食物連鎖を通じ体に蓄積した可能性がある。メカニズムはよく分かっていないが、本人は問題がなくても子どもに影響が及ぶ恐れがある。
 ベトナム政府によると、高濃度の汚染地「ホットスポット」は国内に少なくとも28カ所ある・・・

このページのトップに戻る