【お知らせ】WEB新書は閉店しました。

教育・子育て
朝日新聞社

僕は部活で首の骨を折った スポーツ事故生む体質と進まぬ原因究明

初出:2013年7月16日〜7月20日
WEB新書発売:2013年8月2日
朝日新聞

このエントリーをはてなブックマークに追加

 学校でのスポーツ事故がなくならない。暑さでフラフラな生徒に「演技じゃろが」と前蹴りするような「暴力指導」や、炎天下でダッシュを何本も繰り返させるような「知識不足」に加え、再発防止に必要な原因究明が「学校の壁」に阻まれることも多い。ラグビー部の紅白戦で首の骨を折り、首から下の感覚を失った青年はいま、指導者や学校と過失の有無を争わず、ともに事故を減らす行動が起こせないかと考えている。

◇第1章 教えて、あの時何が/事故防止策「学校と共に探りたい」
◇第2章 「暴力」指導に自覚なし/顧問「演技じゃろが」と前蹴り
◇第3章 第3章 炎天下のダッシュ 倒れても保健室運ばれず/死と隣り合う熱中症
◇第4章 胸に死球、直後に心肺停止/知られぬ症状に対処を
◇第5章 暑さ指数 生徒も指導者も把握/命守るため探る現場


第1章 教えて、あの時何が/事故防止策「学校と共に探りたい」

◎ラグビー紅白戦で首骨折
 それは紅白戦での出来事だった。2002年11月。相手選手のタックルを受けながらボールをパスしてうつぶせに倒れ、立ち上がろうとした瞬間だ。誰かが背後から倒れ込み、首の骨がボキッと音をたてた……。
 京都成章高ラグビー部2年だった中村周平さん(27)の記憶では、そういうことがあったはずだ。中村さんは首から下の感覚を失った。食事、入浴などで介護に依存を余儀なくされた。その苦しみに輪をかけたのが事故との向き合い方で周囲と生じた温度差だった。
 なぜこうなったのか、事実を明らかにし、二度と事故が起こらないよう役立ててほしいという思いがあった。誰かに責任をとれと言いたいわけではなかった。
 だが、誰が倒れ込んだのか、どんなプレーがあったのか、監督やコーチの説明は二転三転し、不信感が募った。「今思えば、誰か一人に責任がいかないように、という学校の配慮だったのかもしれません」
 05年、「不慮の事故」ととらえる学校を相手に調停を起こした。3年以上にわたる調停は生活の補償問題に終始した。和解したが、中村さんが補償より求めた原因究明と再発防止策には触れられなかった。指導陣との間には深い溝が生じ、ざらついたものが残った。
 中村さんは、過失があった当事者が補償を負う現行制度が、原因究明を阻み、防げるはずの事故を再発させると考える。当事者が責任を問われることを恐れ、事実を明らかにすることに消極的になるからだ。「そもそもスポーツで過失の認定は困難を極める。だから事故に遭った人をしっかり補償する制度を探り、指導者や学校と過失の有無を争わず、ともに事故を減らす行動が起こせないか」と、中村さんは考える。
 立命大に進み大学院で修士課程を終えた。事故の当事者が集まる場を作ることから模索している。



◎酷暑の練習、低酸素脳症/原因詳細、記載なし
 「なぜこんなことになったのかを知りたい」。兵庫県太子町の男性(50)の思いは、学校という壁の向こうになかなか届かない。
 県立高2年生だった長女(22)は07年、テニス部の練習中に倒れた。低酸素脳症で、以来寝たきりだ。
 蒸し暑い日だった。中間試験で11日ぶりの練習再開初日、約3時間の練習の最後に事故は起きた。顧問は出張で不在だった。
 学校が県教委に提出したA4用紙1枚の事故報告書には詳しい原因の記載はなかった。
 10年、学校を管理する県を相手に損害賠償を求める訴えを起こした。裁判で当時の校長は調査や保護者への説明について「顧問や現場にいた生徒に話を聞き、報告書を作成した。十分にやったと思っている」と述べた。また学校側は、長女が倒れたのは病気が原因とし、「熱中症」と主張する父親とは対立している。
 父親と長女は12年11月、「事故原因を究明する第三者委員会を設置してほしい」という要望書を県知事に出した。しかし委員会は設置されていない。父親は言葉に力を込める。「事故を検証せず、個人のせいにして済ますようだと悲劇は繰り返される」

◎運動部死亡率、突出するラグビー・柔道
 名古屋大学大学院の内田良准教授の調査によると、1983〜2011年度、運動部活動中の死亡事故は全国で計870件起きた。競技人口から死亡率を出すと、中学は柔道、高校は柔道とラグビーが突出している。死因は柔道が頭部外傷、ラグビーも頭部と首の外傷が目立つ。
 日本ラグビー協会は07年に重症事故対策本部を設置。チームの責任者が安全推進講習会を受けることを登録条件とし、正しいタックルの方法や脳振盪(しんとう)を甘くみないことなどの啓発を進めた。08年度以降、学校活動下の死亡と重大な障害事故は大幅に減った。
 同協会の渡辺一郎・安全対策委員長が問題視するのは高校指導者の意識だ。「脳振盪の疑いの診断を受けると3週間試合に出場できない規定だが、戦力低下を避けたい指導者が、脳振盪の疑いがあっても医者にみせない傾向がある・・・

このページのトップに戻る