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教育・子育て
朝日新聞社

「両方とも、本当のママ!」 養子縁組タブー視の現実を超えて

初出:2013年7月10日〜7月20日
WEB新書発売:2013年8月9日
朝日新聞

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 生みの親が育てられない「要保護児童」は全国に4万7000人。その多くが施設で暮らす一方、里親委託や特別養子縁組で家庭的な環境の中で育つ子どもたちもいる。そんな血縁のない親子が乗り越えなければならないのが、生みの親の存在を伝える「真実告知」。真実を聞いた子どもたちは、育ての親への愛情とは別に、生みの親に焦がれたり憎んだり、幼い心の中で葛藤する。学校でつらい思いをすることもある子どもたちは、養子が普通に語られる社会を待ち望んでいる。

◇第1章 両方 本当のママ!
◇第2章 生みの母はスパイ?! あれこれ妄想
◇第3章 「生んでないくせに」 言っちゃった
◇第4章 自分の居場所はこの家なんだ
◇第5章 生まれよりも、どう生きるかだ
◇第6章 低い大学進学率、夢支える奨学金
◇第7章 ルーツ捜し 解けたわだかまり
◇第8章 養子 普通に語られる社会に


第1章 両方 本当のママ!

 福井県に住む森崎悠貴君(4)は5月上旬、熊本市の慈恵病院で、ビデオカメラを手にはしゃいでいた。「赤ちゃん、赤ちゃん」。母の麻紀さん(36)と父の千春さん(39)が、生まれたばかりの男の子を交互に抱っこしている。
 3232グラムのその赤ちゃんを産んだのは、麻紀さんではない。予期しない妊娠をした未婚女性が慈恵病院に相談。病院が社会福祉士を通じ、森崎さん夫婦に「新生児養子縁組」を打診したのだ。同病院は、日本初の「赤ちゃんポスト」を始めたことで知られ、24時間態勢で相談を受け付けている。
 夫婦は赤ちゃんを受け入れ、「晴斗(はると)」と名付けた。悠貴君が大好きな特撮テレビ番組のヒーローの名前にちなんだ。
 夫婦は結婚して10年たっても子どもを授からず、養子を迎えることにした。悠貴君も生まれた当日に他県の産院で引き取り、1年後に特別養子縁組が成立。戸籍上、長男になった。
 「はる君、かわいい。抱っこしていい?」
 悠貴君は今、「弟」に夢中だ。でも、母親のおなかが大きくなる姿は見ていない。麻紀さんによれば、赤ちゃんは突然目の前に現れるものと思っているらしい。
 麻紀さんと、生んでくれたお母さん。ふたりのお母さんがいることを、悠貴君にも晴斗君にも小学校に入学するまでにちゃんと伝えたい、と夫婦は思っている。千春さんは「子どもには、家族の真実を知る権利がありますから」と話す。
    ◇ 
 血縁のない養親子や里親子にとって、生みの親の存在を伝える「真実告知」は、乗り越えなければならない壁の一つだ。
 大阪府に住む元幼稚園教諭の川端文香さん(37)は3年前、民間団体アクロスジャパン(東京都)を通じて生後5日だった長女を、2012年12月にも生まれたばかりの男の子を迎えた。
 特別養子縁組をした長女が2歳半になるころ、お風呂の中で言った。「私はママのおなかから出てきたん?」
 川端さんは、こう答えた。
 「ママのおなかじゃなくて、○○(地名)のママのおなかから出てきたんやで。あなたには生んでくれたママとママと2人いる。○○のママにこんなに丈夫な体をもらったんやから、大事にせなあかんで」
 長女はお風呂を出るなり、「パパー、私にはママが2人おるんやでー」と小躍りしながら大声で報告した。
 実は川端さんは、長女が1歳を過ぎたころから、折に触れて真実告知をしてきた。写真を見せ、「これが生んでくれたお母さんやで」などと伝えてきた。
 自分はもちろん、10カ月間おなかの中で育て、命をかけて世に送り出してくれた生みのお母さんも、子どもを大切に思っている。それを子どもの成長段階に合わせて丁寧に伝え続けることが大事ではないか、と川端さんは考えている。
    ◇
 告知を受けた養子は、どう受け止めるのか。
 「マミーのおなかがこわれちゃって入ってこられなかったので、もう一人のお母さんが生んでくれたんだよ」。東京都内で暮らす小学2年の小川伊吹君(7)は3歳のころから、母(48)にそう聞かされてきた。
 生みの母は出産時、大学生だった。育てることができず、現在の両親に引き取られ、特別養子縁組で長男になった。
 母は、伊吹君の誕生日とクリスマスの年2回、生みの母に写真を送るほか、今もメールでやりとりをする。「(生みの母が)皮膚が乾燥しやすいとか太りやすい体質だとか、遺伝的な情報を教えてもらい、育てるうえですごく役立つ」と言う。
 自宅には、生まれたばかりの伊吹君を抱いた生みの母の写真が飾られている。笑みの間から見える歯並びは、今の伊吹君にそっくりだ。
 「両方とも本当のママ! 生んでくれたママの顔は、いつか生で見てみたいなあ」
 屈託のない伊吹君だが、学校では嫌な思いをしたこともある。友だちから「お母さんと似てないね」と言われたのだ。親子に血のつながりがないことを知っていてわざと聞いてきたようで、悔しかった。「だってママから生まれたんじゃないから」と言い返した。
 養子縁組が珍しくない米国では、小学校低学年から養子縁組家庭について授業で教えるという。日本ではタブー視する人もいて、学校や地域でオープンに語られる機会は少ない。
 伊吹君は「家族と話すのはいいけど、学校ではそういう話はあまりしたくない」とうつむいた。

◎生みの親が育てられない子の9割、施設に/国、里親委託増加へ目標
 厚生労働省によると、生みの親が育てられない「要保護児童」は約4万7千人。その9割近くが施設で暮らしている。
 子どもを家庭的な環境で養護する里親などへの委託率は年々伸びているものの、2011年度末で13・5%。同年度中の2歳未満の赤ちゃんの措置先も、乳児院1722人に対し、里親は310人にとどまる。
 一方、最高裁によると、11年度に成立した特別養子縁組は374件で、1988年の制度導入以降、減少傾向が続く。
 里親委託は、育ての親が一時的に預かる制度で、里親と子どもは名字が異なり、戸籍上の親子関係はない。特別養子縁組は、原則として6歳未満の子が対象で、家庭裁判所の許可が必要。戸籍でも実子と同じ扱いになり、生みの親との親子関係がなくなる・・・

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