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医療・健康
朝日新聞社

後ろめたさはがんばった証し 認知症の家族を施設に預けるとき

初出:2013年8月1日〜8月7日
WEB新書発売:2013年8月23日
朝日新聞

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 あなたは家族が認知症になったとき、施設に預けますか? 付き添い介護から徘徊の保護まで頑張ってきた家族ほど、預け入れには罪悪感を感じてしまう。しかし、良い職員のいる施設を選べば認知症になった本人だけでなく、家族も励まされ、心理的にも楽になるという。施設で暮らす認知症の男性の思いから、受け入れ施設探しの実践まで、幅広く紹介する。

◇第1章 受け入れ施設、どこに 情報乏しい行政
◇第2章 ホームに泊まる、なんで帰れんとかな
◇第3章 職員と会話、和らぐ心
◇第4章 なんで預けちゃったんだろう
◇第5章 施設選びのポイントは


第1章 受け入れ施設、どこに/情報乏しい行政

 「家族でみるのは限界かもしれない」。2013年5月、医師が薬を変更したのをきっかけに母(86)の状態が急激に悪化した。笑顔が消え、トイレは全面介助が必要になった。埼玉県川口市の鈴木則子さん(62)は父(90)、妹(55)とともに本格的な施設探しを始めた。
 母が認知症と診断されたのは07年。2年後に徘徊(はいかい)が始まった。ある日曜の朝、行方がわからなくなった。家族全員で捜し回った末の夜9時、警察から「保護」の連絡が入った。則子さんと妹は、父と母が2人で暮らす実家に2日交代で通い始めた。
 泊まり当番の日は、デイサービスから帰宅するころ実家に行き、夕食を作る。夜中もトイレに付き添い、翌日はくたくたで体が動かなかった。
 徘徊はその後も続いた。日中、母の行動に困った父から「すぐに帰ってきてくれ」と職場にも電話がかかってきた。家族中が疲弊していった。
 4年前に則子さんが施設を提案したとき、父と妹は「まだ家でみられる」と反対した。今回は、「もう施設入居は避けられない」と家族の思いは一致した。
 施設を探し始めて直面したのは圧倒的な情報不足だ。まず市の窓口で介護事業所マップをもらったが驚いた。「これだけ?」。そこに書かれていたのは名称と所在地、電話番号のみ。
 担当のケアマネジャーに相談しても、「施設には施設のケアマネがいるから、詳しくはわからない」との答え。地域包括支援センターにも出向いたが、窓口には数カ所のパンフレットしかなかった。おすすめを聞いたが、対応した職員は「特定の施設を薦めることはできない」と言った。
 「家族は自力でやみくもに施設を探すしかないのか」
 資金的に、入居金や利用料が高めの有料老人ホームは厳しかった。特別養護老人ホームかグループホームか――。ある特養に問い合わせると、待機者は約200人。ただ、母の状態から「優先順位は高くなる」と言われた。
 希望は、職員数が手厚く、料理好きの母に少しでも包丁を持たせてくれるような所。
 介護経験のある友人に教えてもらうなどして10カ所以上を見学し、ようやく二つのグループホームを見つけた。ただ、いずれも定員はいっぱい。それでも2件とも申し込んだ。「どんな生活をしたいかなどの希望を入力すると、それに合う施設が絞り込めるような検索システムがあればいいのに。行政が整備できないのでしょうか」
 いつ入居できるかわからない。きょうも介護は続く。

◎42万人が特養待機
 自宅を離れて施設に入るのは、住まいを変えるという大きな選択だ。しかし、情報は十分に行き届いていない。いざ施設を探そうとして、「種類が多く、特徴がわかりにくい」と困惑する人は多い。
 その手がかりになるよう、認知症の人が暮らす場所とその概要、費用と要介護度との関係をまとめた(次の図)。


 介護保険データをもとに厚生労働省が推計した認知症の高齢者数は、約305万人(2012年時点)。うち48万人が特別養護老人ホームに入居している。特養は、重度になっても介護が受けられ、「終(つい)のすみか」と言われる。だが、国や自治体の財政難から新規建設が抑えられているうえ、希望者が多く、全国の待機者数は約42万人に上る。
 特養と、リハビリを目的にした介護老人保健施設(老健)、病院の介護型療養病床の三つが介護保険で「施設」と位置づけられている。
 従来型の施設とは別に、認知症に特化されたのがグループホームだ。「認知症ケアの切り札」とされ、全国で整備が進む。地域によっては申し込みが多く、定員の空き待ち状態になっている。一方で入居者は重度化している。
 圧倒的に不足する高齢者の住まい対策として、急増しているのが「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)だ。個室の床面積が原則25平方メートル以上、安否確認と生活相談のサービス提供などが条件で、自治体に登録する。11年の制度開始から11万戸以上が整備された。前の図に当てはめると、サ高住に住む人のほとんどは在宅に含まれ、一部が特定施設になる。
 有料老人ホームやサ高住には、「認知症にも対応」とうたう事業者も多い。実際にどの段階まで暮らし続けられるかは、それぞれ異なる。
 認知症の305万人のうち、半数近くの人は自宅で生活している。今後、認知症の人は増えていくが、厚労省は、住み慣れた自宅などで暮らせる地域づくりを進める考えだ。12年出した認知症施策の5カ年計画(オレンジプラン)には、専門家チームによる初期の人の自宅訪問など、在宅支援策を盛り込んでいる。


第2章 ホームに泊まる、なんで帰れんとかな

◎どうせ、おらんほうが
 荒平覚(あらひらさとる)さん(62)が若年性のアルツハイマー型認知症と診断されたのは57歳のとき。名古屋市のアルミ加工会社を退職し、妻(64)とともに故郷の福岡県大牟田市へ戻った。最近は近所の小規模多機能ホーム「みえあむ」と自宅を行き来する日々だ。みえあむで覚さんの話を聞いた。

 《「かあちゃんが調子悪いときは『泊まって』って言われるけんね」》
 《「自分の家があるのに泊まらないといけない。『なんで?』って思って。なんで帰れんとかな」》

 食事もお風呂も介助はいらない。みえあむまで家から40分余りの道を歩き、迷うことも、まだない。衣類の後ろ前や着脱の順番がわからなくなることはあるけれど。
 ただ覚さんにとって「普通」の日々でも、「かあちゃん」の目でみると暮らしの風景は変わってくる。

 《「テレビがおかしい・・・

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