政治・国際
朝日新聞社

目覚めた中国人民元 巨大通貨は世界経済を左右するか

初出:朝日新聞2013年9月4日〜9月7日
WEB新書発売:2013年9月20日
朝日新聞

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 貿易の決済に、中国の通貨「人民元」を利用する国が急増している。「眠れる巨大通貨」が目覚めた背景には何があったのか。世界経済に対する中国の野心とは? 英国など20カ国・地域に通貨交換協定を仕掛け、日本を尻目にアジアでの人民元拡大をめざし、東南アジアなどに積極的な外貨外交を展開する中国の現在を多角的に追う。あわせて、余永定・元中国人民銀行通貨政策委員と、行天豊雄・元財務官が、米ドルの比重を減らすなど中国の戦略を語る。

◇第1章 人民元、国際秩序に野心
◇第2章 中韓スワップ、日本尻目に拡大
◇第3章 台湾、膨らむ人民元預金
◇第4章 通貨外交、張り合う日中
◇[インタビュー]ドルの比重を減らす考え
◇[インタビュー]アジアでの拡大まず狙う


第1章 人民元、国際秩序に野心


 中国の通貨、人民元を貿易の支払いに使う動きが急増している。中国人民銀行によると、2013年1〜6月で前年同時期より64%増の2兆500億元(約33兆円)と半年ベースで過去最高に達した。米ドルへの依存度を減らそうと、中国政府が20カ国・地域と通貨スワップ(交換)協定を結ぶなど、人民元を流通しやすくしているためだ。
 中国の貿易総額に占める人民元を使った貿易決済の割合も、1〜6月は16・4%と過去最高で、通年では4兆元を上回る勢いだ。


 中国政府は08年のリーマン・ショック以降、米国経済の影響を受けにくくするため、貿易決済で米ドルに依存する割合を減らそうと、人民元の利用を推進してきた。そのため、人民元を他国通貨と交換しやすくするなど規制を緩和したほか、各国が人民元を手に入れやすくする通貨交換協定を英国や韓国など20カ国・地域と結び、後押ししてきた。
 SWIFT(国際銀行間通信協会)によると、世界で決済に使われる通貨として、人民元の比率は13年6月に0・87%と11年6月の0・24%から増加。米ドルやユーロの各36%、円の2・7%に及ばないが、タイ・バーツなどを抜き、1年前の16位から11位に上昇した。
 規制が多いため、中国の経済規模に比べて国外で流通が進まず、「眠れる通貨」と呼ばれる人民元。影響が広がれば、中国企業は為替変動の影響が小さくなり競争が有利になる一方、世界経済が中国の金融・財政政策に左右されやすくなる。

◎20カ国・地域と通貨協定
 中国人民銀行総裁の周小川の左手には、英国の「信任状」が握られていた。
 13年6月22日、中国と英国との間で、人民元と英ポンドを融通しあう通貨スワップ協定が結ばれた。
 周は晴れやかな笑顔で、当時のイングランド銀行総裁、マービン・キングと握手を交わした。
 協定の最大の狙いは、海外での流通が限られている人民元を英国に対し、最大2千億元(3兆2千億円)まで手当てすることだ。貿易や投資で人民元を広める後押しになる。
 中国にとって、タイミングも絶妙だった。通常の銀行融資ではない取引で地方政府などに貸し出す「影の銀行」問題が、世界中から心配されていたからだ。協定の期間は3年。「中国発金融不安」もささやかれるなか、人民元への信頼を象徴する「信任状」となった。
 スワップ網に欧米主要国でトップを切って加わった英国にとっても大きな意味を持つ。キングを動かしたロンドンの金融街、シティーは、新たなビジネスとして欧米での人民元取引の拠点を目指しているからだ。
 英国だけではない。「ユーロ圏での人民元の流動性を確保するため、スワップ協定締結を検討している」。仏中央銀行総裁のノワイエは4月、中国の英字紙チャイナデーリーのインタビューに応じ、パリを人民元取引の拠点に育てる意向を示した。
 ノワイエは、こうもいった。人民元の国際化が進めば「ドル、ユーロと並び、人民元は世界の三大通貨のひとつになる」。
 中国は08年の米リーマン・ショック以降、人民元の「国際化」へかじを切った。そのねらいは「より公平な国際秩序をつくる」(人民銀幹部)。基軸通貨ドルを抱える米国の政策や景気動向が、自国企業の経営に与える影響をなるべく減らそうという試みだ。
 中国が08年に韓国を皮切りに始めた他国との通貨スワップ網は、アジアやオセアニア、南米まで20カ国・地域に広がった。中国が大量の資源を輸入する中東、アフリカ、さらに政治的に微妙な関係にある台湾も加わるとみられている。


 中国政府の動きに民間企業も呼応し始める。大手金融機関HSBCによれば、人民元で決済するなら5%程度は値引きするという中国企業も増えている。
 中国政府は11年、海外投資家の一部に、中国内の人民元建ての金融商品への投資を認めた。20年までに人民元をドルや円のように自由に交換できる通貨に育てる戦略を描く。
 中国は、20年代に国内総生産(GDP)でも米国に並ぶとされる。その強大な経済力を背景に、アジアでは、円よりも元が存在感を高めるという見方が広がりつつある。
 元財務官の行天豊雄はいう。「中国は、時はわれにあり・・・

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目覚めた中国人民元 巨大通貨は世界経済を左右するか
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貿易の決済に、中国の通貨「人民元」を利用する国が急増している。「眠れる巨大通貨」が目覚めた背景には何があったのか。世界経済に対する中国の野心とは? 英国など20カ国・地域に通貨交換協定を仕掛け、日本を尻目にアジアでの人民元拡大をめざし、東南アジアなどに積極的な外貨外交を展開する中国の現在を多角的に追う。あわせて、余永定・元中国人民銀行通貨政策委員と、行天豊雄・元財務官が、米ドルの比重を減らすなど中国の戦略を語る。[掲載]朝日新聞(2013年9月4日〜9月7日、8800字)

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