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朝日新聞社

納豆、小さな豆の不思議の糸 健康食品はジェット気流に乗って

初出:2013年7月3日〜7月10日
WEB新書発売:2013年9月20日
朝日新聞

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 食卓の欠かせぬ名脇役、納豆。美味だけでなく、動脈硬化、血栓、骨粗鬆症、糖尿病などの予防に効果があるとされる超健康食品だが、近年、ジェット気流に乗って能登上空にやってきた納豆菌が注目された。石川県では地場産「そらなっとう」を売り出した。水戸、秋田、京都は納豆の本場・発祥をうたい、メーカーは競争力アップに余念がない。納豆菌、この微生物の生命力には、豊かな未知の可能性があるのか。健康から街づくりまで、国民食・納豆の不思議をあらためて探る。

◇第1章 脇役でも「へぇ」たくさん
◇第2章 菌はジェット気流に乗って
◇第3章 天狗か、おかめか、パキッ!とか
◇第4章 「地球を救う」合言葉に世界へ
◇第5章 街もり立てる不思議の糸


第1章 脇役でも「へぇ」たくさん

 好き嫌いはあっても納豆を知らない日本人はいないだろう。でも、歌手の和田アキ子さんや女優の菊川怜さんが「納豆クイーン」だったと知っている人はどれだけいるだろう。


 納豆の日(7〈ナッ〉月10〈トウ〉日)にちなんで、全国納豆協同組合連合会が2002年から選んできた。
 「常に納豆というノイズを市場に漂わせておく。そのためにも、納豆好きの有名人に、健康美の象徴になっていただこうと始めた企画です」と全納連の野呂剛弘会長。7月3日には新クイーン宮崎香蓮さんが発表になる。
 考えると奇妙な食べ物だ。際だった存在感をもつ半面、食卓の主役を張ることもない。だから日頃、そう意識しないが、目を向けてみると、へぇそうなんだと思わせられることが多い。
 かの食通・魯山人も納豆に関して「これを知る人は意外に少ない」として、「納豆の茶漬けは意想外に美味(うま)いものである」と書き残している。「私の発明したものではないが、世上これを知らないのはふしぎである」
 この趣味人は「糸を出せば出すほど納豆は美味くなるのであるから、不精(ぶしょう)をしないで、また手間を惜しまず、極力ねりかえすべきである」と説き、「糸のすがたがなくなってどろどろになった納豆に、辛子を入れてよく攪拌(かくはん)する。この時、好みによって薬味(ねぎのみじん切り)を少量混和すると、一段と味が強くなって美味い」と著している(魯山人味道)。
 健康効果の「へぇ」も少なくない。昔から体によいと言われてきたものの、血栓を溶かすナットウキナーゼの発見は1980年代。以来、動脈硬化の防止効果が期待されるポリアミン、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の予防に役立つビタミンK2……と、様々な納豆パワーが話題になってきた。
 最近注目されるのがAIMというたんぱく質との関係。この血中濃度が高くなり過ぎると、動脈硬化や糖尿病をもたらす原因の一つになる。納豆にはそれを「体によい濃度に保つ作用があるらしい」ことが東大の宮崎徹教授の調査で分かってきた。
 「知らないこと、見つかっていないことがまだある。少なくとも、まだいろいろありそうだと思える。そんな魅力がありませんか」と、野呂会長は言う。
 不思議な豆は、私にとっても毎朝欠かせない一品だ。親譲りの高血圧とあって、せめてもの健康法として、米のごはん抜きでも、ほお張っている。
 それだけに東日本大震災後、しばらく売り場から消えたときは落ち込んだ。石油コンビナート事故でラベルが不足するというちょっと意外な理由だった。
 伝統食品なのに、いつも、何かと落ち着かない。
 「そらなっとう」という新商品もある。能登半島の突端で、黄砂などの観測をしている研究者が「空飛ぶ納豆菌」を発見、それで納豆を作り、12年末から一般に売り出している。
 でもまだ意外に知られていない。


第2章 菌はジェット気流に乗って

 空を飛ぶ納豆菌を取って納豆を作っている。そう聞いて向かったのは能登半島の突端。石川県珠洲市の廃校になった小学校だ。2008年から金沢大学が大気の観測拠点にしている。
 日本海に突き出た過疎地は、国内の工場などの影響を受けにくく、大陸から来るジェット気流の調査にうってつけだ。パイプを立てたり、気球を飛ばしたりして黄砂やPM2・5など大気中の微粒子を取って調べる。
 この観測で、納豆菌が見つかったのだった。だが、すぐ正体が分かったわけではない。
 温度も水分も日差しもジェット気流は生物には厳しい環境だ。そこを生きながらえてきたのは何者か――。
 「当初はどんな毒性をもっているかが関心事でした・・・

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