【お知らせ】WEB新書は閉店しました。

経済・雇用
朝日新聞社

その出向、もう戻れません 「経験を生かす仕事はない」という現実

初出:2013年7月14日〜9月16日
WEB新書発売:2013年9月27日
朝日新聞

このエントリーをはてなブックマークに追加

 いまや企業の「追い出し部屋」は、あらゆる形ではびこっている。出向もその一つ。マグロすら売る電話営業、1日3千枚のチラシ配布、終日続く部品の数量確認……かつての管理職がそんな仕事に耐え忍ぶ。抵抗して残ったところで、とことんまで追い込まれることに変わりなく、会社は「教育」と開き直る。まさに出るも地獄、残るも地獄。味方のような顔をした再就職支援会社すら「ブラック」だったとしたら、最後の逃げ場は「死」しかないのか。

第1章 出向という名の「追い出し部屋」
第2章 「自分が機械になった気分」
第3章 「うつになった。人間は弱い」
第4章 「基金は都合よいサイフ」
第5章 「全力で支援、なんてうそだ」
第6章 「異業種でも、仕事あれば」


第1章 出向という名の「追い出し部屋」

 東京都心の高層ビルの一室に、マンション分譲大手の大京の社員十数人が集められている。人事コンサルティング会社のベクトルへの「出向」を命じられた人たちだ。彼らはそこを「追い出し部屋」と呼ぶ。
 「JINS(ジンズ)メガネです」
 問い合わせの電話に、低価格を売りにしためがねチェーンの名前で答えると、40歳代の大京社員は、チェーン店でのアルバイトの面接日時について説明した。
 朝に出社すると、求人サイトへの応募メールをチェックし、JINSの採用面接の日取りなどを連絡する。夕方まで続けると、くたくたになる。
 ほかの人も、「マツモトキヨシ」や「ブックオフ」を名乗り、パートなどの募集業務を代行する。不慣れなせいで、別の社名で答えてしまう同僚もいて、不審に思った相手に詰め寄られてあたふたする。そんな様子を見ると、情けなくなってくる。
 ベクトルへの「出向」が始まって約3カ月がたった。「同僚」は、大京の営業や経理、システム開発などから集められた。
 「皆さんは成果の出ていない方々。これは『気づき』を与える教育出向と考えていただきたい」
 3月下旬、ベクトルへの「出向説明会」で、人事担当幹部はそう言った。
 だが出向先の実態は違う。「教育なんてウソだ」

◎電話営業 教材からマグロまで
 出向者の給料は大京が払い、受け入れた営業代行会社などはタダ同然で大京社員を自社のビジネスにつかう。そんな「二人三脚」が社内で知られるようになったのは、大京がオリックス傘下に入り、リーマン・ショックで経営危機に陥った後からという。
 「とても売れそうにない商品を売るように言われて」。希望退職への応募の打診を断ったあと、営業代行会社のセレブリックスに出向させられた中年の男性社員はこう振り返る。そこでの仕事も、さまざまな会社の営業代行だった。
 長机に出向社員ら約200人が肩がくっつくほどびっしりと座らされた。「お世話になっております。○○と申します」から始まる電話営業の「台本」が渡され、電話を1日200件かけるノルマが課された。
 売り込む商品は毎月のように変わった。メールソフトや幼児用の英会話教材、そして「マグロ1匹」。
 電話での働きかけがぎこちないと、一回り以上も若いセレブリックスの社員に1時間もなじられる。
 キャリアを積み重ねてきた中堅社員たちが会社の都合でばっさり切られ、退職を拒めば過酷な業務を強いられて使い捨てられる。
 「俺たち奴隷かよ・・・

Facebookでのコメント

このページのトップに戻る