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朝日新聞社

いまなぜ秘密保護法なのか 危険な国の拡大解釈、脅かされる知る権利

初出:2013年9月18日〜10月18日
WEB新書発売:2013年10月25日
朝日新聞

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 安倍政権が「特定秘密保護法」の整備を急いでいる。背景にはどんな動きがあるのか。知られては困る、安全保障上の「特定秘密」とは何か。なぜ「厳罰」を盛り込むのか。沖縄の基地、核・原発関連の「秘密」が増大し、情報公開はより不透明になるのではないか。公務員は口をつぐみ、メディアの取材活動は制限されないか。戦前のように、「法の拡大解釈」が市民の自由を奪うことはないのか――。公権力の「情報隠し」と国民の「知る権利」の今後を見据え、この「法案」をめぐる疑念や懸念を多角的かつ詳細に読み解く。

◇第1章 消えぬ疑念 情報隠しと拡大解釈
◇第2章 記者の取材活動はどうなる?
◇第3章 法案成立をなぜ急ぐのか?
◇第4章 なぜ厳罰化なのか?
◇第5章 適性評価とはなにか?
◇第6章 国民の意見はどうなのか?
◇第7章 指定するのは誰なのか?
◇第8章 「特定秘密」誰が扱うのか?
◇第9章 秘密の期間はいつまでか?
◇第10章 「知る権利」は大丈夫か?


第1章 消えぬ疑念 情報隠しと拡大解釈

◎「米と機密共有」急ぐ
 「我が国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿する必要があるものについて、的確に保護する体制を確立するため、新たな法案の次期国会への提出と早期成立をめざす」。安倍晋三首相は2013年9月17日の閣議で特定秘密保護法案の重要性を強調し、森雅子消費者相に担当相を兼務するよう指示した。菅義偉官房長官は閣議後の会見で「内閣を挙げて法案の早期成立に協力していく」と話した。
 公明党も17日、法案を議論するプロジェクトチームを初めて開いた。政権から礒崎陽輔首相補佐官らが説明に立った。公明側から「知る権利、取材、報道の自由を明記すべきだ」「通常の取材は処罰の対象にならないよう規定すべきだ」「特定秘密の指定は各省庁バラバラではいけない」といった意見が出たが、法案への反対意見はなかった。
 同法案は、国の機密情報漏れを防ぐことが狙い。(1)防衛(2)外交(3)外国の利益を図る目的の安全脅威活動の防止(4)テロ活動の防止、の4分野で、外に漏れると国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあると行政機関のトップが判断した場合、特定秘密に指定する。
 故意であれ過失であれ、秘密を漏らせば最長10年の懲役刑。対象も国家公務員だけでなく、自衛隊装備を受注した契約業者らも含まれる。これらの人々からだましたり、盗んだり、建物に侵入したりして入手した場合も同じ罰則となる。
 安倍政権はなぜ今、この法案の成立を急ぐのか。
 機密漏出への罰則強化をめぐっては2007年の第1次安倍内閣でも、国家安全保障会議(日本版NSC)発足に不可欠として早期の法整備を模索した。さらに10年に起きた尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件のビデオ映像流出を機に民主党政権も検討。安全保障のパートナーである米国側の要望も従来からあった。
 ただ、法案審議がすんなり進むかは見通せない。特定秘密の指定や厳罰化は、ひいては国民の「知る権利」の侵害につながる――との懸念が根強いからだ。
 日本弁護士連合会は9月12日、「時の政府当局者の自己保身のための秘密まで『特定秘密』にされかねない」とする意見書を政府に送付。新聞労連も「国民の知る権利や取材、報道の自由は侵害され、民主主義社会の基盤が失われるのは確実」と批判している。
 ただ、安倍首相は「秘密保持は極めて重要な要素になる。海外のNSCとの情報交換の前提となる」と、特に同盟国・米国との機密情報共有に不可欠だとし、成立にはこだわりが強い。
 政権は法案審議に十分な時間を確保するため、連日開催できる特別委員会設置を検討し、丁寧な国会審議をアピールする構え。森担当相も9月17日の会見で「国民の知る権利、取材の自由、報道の自由。大切な権利なので、しっかりと保護するよう国民に丁寧に説明していきたい」と強調した。
 米国では、憲法修正第1条で報道や言論の自由が保障されている。しかし、オバマ政権下で、報道機関に機密を流出させた公務員らが、スパイ防止法違反容疑などで訴追されるケースが急増し、少なくとも6件に上る。国民の知る権利と、機密保護のバランスをどうとるかが論議を呼んでいる。

◎「基地・原発」募る不安
 特定秘密の範囲があいまいなまま法案が成立すれば、今よりさらに情報が出にくくなる。そんな心配をする人たちも少なくない。
 沖縄県宜野湾市。計23機の新型輸送機オスプレイが配備された米軍普天間飛行場前では毎朝、市民団体が撤去を求める。沖縄平和運動センターの岸本喬(たかし)事務局次長(50)は言う。「秘密保護法ができたら、訓練内容が明らかにされないどころか、情報収集まで取り締まられる可能性がある」
 オスプレイ配備にしても政府は1996年に知っていたのに、沖縄県に正式に通知したのは2011年。米海軍基地に入港する原子力潜水艦の情報も、以前は24時間前までに防衛庁(当時)から県に通告があったが、01年9月の米同時多発テロ事件以来、知らされなくなったという。「米国に都合の悪いこともすべて隠されるようになるだろう・・・

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