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朝日新聞社

ひきこもり20年、その先 時間との闘いにもがく老親たち

初出:朝日新聞2013年10月7日〜10月12日
WEB新書発売:2013年10月25日
朝日新聞

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 100万人いるとの指摘もある「ひきこもり」。国の対策が始まってすでに20年が過ぎたが、事態の深刻度はむしろ増している。ひきこもる子たちは、10代〜20代からいつしか中年世代となり、世話をする親にも容赦なく老いが迫る。「私が死んだら…」「道連れにしたい」「支援は断てない」……千々乱れる親心。現実を直視しなければ、いずれ生活は成り立たなくなる。親にも、子にも、残されている時間は、それほどない。

◇第1章 サバイバル計画作ろう
◇第2章 もがく親に寄り添う
◇第3章 親世代より厳しい社会
◇第4章 比べない、ありのまま
◇第5章 脱ひきこもりへ就労訓練/若年者支援機構「しごとや」、成果


第1章 サバイバル計画作ろう

 「私が死んだら家にひきこもっている息子は生きていけるでしょうか」。東京都のファイナンシャルプランナー畠中雅子さん(50)は15年ほどこんな相談を受けてきた。訪れるのは年老いた親たちだ。
 1年前の夏。電車を2時間ほど乗り継ぎ、関東地方に住む女性(70)が訪ねてきた。夫は他界し、40代前半の息子と暮らす。就職して間もなく失職し、20年近くひきこもる息子のことを話し始めた。
 「ネットでCDやゲームソフトを代引きでどんどん注文し、私が払うんです。でも本当に必要でもないみたいで、未開封の箱が部屋の前に積まれていて……」
 家計の収支があいまいなのは明らかだ。畠中さんは女性宅の全資産を聞き取って紙に書き出し、息子が80歳まで1人で生きると仮定して1カ月に使える金額をはじいた。
 「生活費に上限が必要です。『浪費をやめれば今の貯金で生きていけるが、このままでは65歳で底をつく』と紙に書いて渡して下さい」。貯蓄残高が減っていく様子を表にし女性を説得した。その後どうなったか、連絡はない。
 相談に来るのはほとんどが母親だ。60〜70代が多い。「道連れにしたい」と泣き出す人や、「おまえの育て方が悪い」と夫から暴力を受けている人もいる。医師やカウンセラーに相談しても前進できず、親族からも心ない言葉を投げつけられる。
 向き合うのは重い仕事だけにひきこもりの相談は月2、3件にしている。就労を断念した40歳以上の子を持つ親を優先する。原則39歳までは行政の就労支援策があり親が子の就労をあきらめきれない。
 ひきこもりの親向けの講演会では「お子さんのサバイバルプランを作ろう」「不公平な相続をきょうだいに納得してもらって」と話す。どこの講演会でも終わると数人の母親が列を作り、「実はうちにも」と話を始める。助言は細部に及ぶ。水道などが親の死亡後に閉鎖されないよう引き落とし口座の名義を子に変えておく。米を一度に多く炊き、ラップに小分けして冷凍庫に並べる訓練をする。
 親の世代が次々と年金生活に突入し、現実を直視しなければならない段階に来た。余裕のない家庭では子が生活保護を受けるしかなくなると感じる。「次に世間がひきこもりに関心を向けるとき、当事者がバッシングの対象になる気がしてならない・・・

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ひきこもり20年、その先 時間との闘いにもがく老親たち
216円(税込)

100万人いるとの指摘もある「ひきこもり」。国の対策が始まってすでに20年が過ぎたが、事態の深刻度はむしろ増している。ひきこもる子たちは、10代〜20代からいつしか中年世代となり、世話をする親にも容赦なく老いが迫る。「私が死んだら…」「道連れにしたい」「支援は断てない」……千々乱れる親心。現実を直視しなければ、いずれ生活は成り立たなくなる。親にも、子にも、残されている時間は、それほどない。[掲載]朝日新聞(2013年10月7日〜10月12日、7000字)

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