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朝日新聞社

職場で、全裸で、踊れますか 横行するパワハラの恐るべき実態

初出:2013年10月4日〜10月25日
WEB新書発売:2013年11月8日
朝日新聞

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 職場でのパワーハラスメント被害が急増している。労働局に寄せられる「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は、すでに「解雇」を抜いて内容別で最多。だが、被害を訴え出ても会社側に否定され、うつ病と診断されても退職に追い込まれても、労災認定を受けられないことすらある。訴訟を起こして損害賠償を得られても、その金額は微々たるもの。自殺まで追いつめられたのに、泣き寝入りするしかないような事例も決して少なくないのが現状だ。

◇第1章 心むしばむパワハラ
◇第2章 そして自ら命を絶った
◇第3章 部下から「逆パワハラ」
◇第4章 パワハラ、労災認定の壁


第1章 心むしばむパワハラ

◎全裸で踊らされ…「怒られるよりずっと楽」

 「おいテメー、最近売り上げがねーな。テンション上げるぞ。服脱いで踊れ」
 午後8時過ぎ。東京都の男性(34)がオフィスで営業の電話をかけていると、年上のマネジャーが命令してきた。
 30人ほどの同僚が残っているが、上司の命令は絶対だ。ためらうことなく全裸になり、机の上に乗った。命じられるまま、当時はやっていたロックバンドの歌を、踊りながらうたった。
 同僚たちがどっと笑うと、男性もつられて笑った。「笑われるのはつらくなかった。怒られるよりは、こっちの方がずっと楽だった」。全裸で踊らされたことが何度もあったと、男性は振り返る。
 当時勤めていたのは、東京都に本社があるオフィス機器の販売会社。今まで取引がなかった中小企業に急に電話してアポイント(訪問の約束)をとり、コピー機を売る仕事だった。営業マン1人につき毎月4〜10台の販売ノルマがあり、「ノルマをこなさなければ、人として扱ってもらえない会社だった」。
 朝8時半に出社。朝礼で腕立て伏せとスクワットをさせられてから、仕事が始まった。営業先のリストを見て、片っ端から電話をかけた。「間に合っている」と言われて、すぐに電話を切られる場合が多い。手をぬいていないか、マネジャーがずっと監視していた。
 夕方になっても1件もアポが取れていないと、冷や汗が出た。マネジャーが怒り始めるからだ。
 「なにポヤポヤやってんだよ! 電話離すんじゃねー」。怒鳴るマネジャーに、手と受話器を粘着テープで巻きつけられた。イスを蹴飛ばされ、テープを巻いた手で、立ったまま電話をかけ続けた。
 午後10時。アポ取りの電話ができない深夜になると、マネジャーの前に正座させられた。「なんでアポ入らねーんだ。死にてーのか!」「仕事できねーやつだな。親の育て方が悪かったのか?」
 長い日は午前1時ごろまで、マネジャーの説教は続いた。2004年に入社し、5年もたたないうちに過労とストレスで頭痛がひどくなり、退職を決めた。
 大学を卒業後、フリーターをへて選んだのが、この会社だった。「数年間耐えられたのは、こういう働き方が社会人の常識だと思っていたから。マインドコントロールされていたんだと思う」



◎労働相談内容で最多
 職場の上下関係を利用し、働き手に肉体的、精神的な苦痛をしいるパワーハラスメントの被害が増えている。
 厚生労働省によると、12年度に全国の労働局に寄せられた相談のうち、「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は5万件を超え、「解雇」をぬいて相談内容別で最多になった。
 職場のハラスメント研究所の金子雅臣所長は「過剰なノルマを設定され、成果が出ないと退職を迫られる。そんな余裕のない職場では長時間労働が当たり前になり、人間関係がギスギスし、パワハラが起こりやすい」と指摘する。
 教育関連企業の営業職だった東京都の40代男性は、退職勧奨を断ったのをきっかけに、パワハラが始まった。
 「今日の会議、お前は来なくていいよ」。上司の言葉に、男性は耳を疑った。同僚が全員出席する会議に、自分だけ出させてもらえなかったのだ。07年のことだ。会議で出された新規の仕事は、すべて同僚に回された。「ふざけんな」。頭に血が上った・・・

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