社会・メディア
朝日新聞社

ネット情報の怖い話 個人データがひとり歩き・盗み見られる情報化社会の現実

初出:朝日新聞2013年7月17日〜10月24日
WEB新書発売:2013年11月8日
朝日新聞

このエントリーをはてなブックマークに追加

 身に覚えのない借金の滞納で、ローンを組めなかったら? ソフトバンクモバイルが顧客約6万人の信用情報を誤って登録していた問題は、不確かな個人情報が、自分の知らないところでひとり歩きする現代の情報ネットワーク社会の怖さを、まざまざと見せつける形となった。実は信用情報の登録ミスは、過去にも幾度となく繰り返されており、06年には314万件という大きな規模の誤登録が発覚した。問題は信用情報だけではない。実は国境を超えてインターネットを流れる情報の8割は、北米を経由しており、アメリカの政府機関の監視下にあるのだ。サイバー空間の情報の流れのあり方が、リアルな生活をも脅かす、ネット社会の暗部をえぐり出すレポート。

◇第1章 身に覚えなく滞納者扱い
◇第2章 ブラックリスト5年は残る
◇第3章 盗み見られる個人情報


第1章 身に覚えなく滞納者扱い

◎カード審査落ち
 関東地方に住む20代の女性は2013年3月、クレジットカードを店頭で申し込んだが、審査で落ちてしまった。カードは特定のテナントのお店で割安に買い物ができ、IC乗車券としても使える。お得なポイント制度もあって、勤務先の同僚の間で人気だった。
 「なぜ自分だけが……」。女性は落ち込んだ。とはいえ、ほかのクレジットカードを含め、延滞などの心当たりは全くない。カード会社に問い合わせても、理由は教えてもらえなかった。
 なぞが解けたのは半年ほどたった9月初め。分割払いで買った携帯電話を使っているソフトバンクモバイルから文書が届き、代金をきちんと支払っていたのに滞納者として扱われていたことを知った。
 支払い情報が誤って登録されていた期間と、カードの審査に落ちた時期はちょうど重なる。10月、ソフトバンクの問題が発覚した後、カード会社に再び申し込むと、今度はすんなりと発行された。女性は「最初に審査に通らなかったのは誤登録が原因としか思えない」と話す。
 ソフトバンクによると、客からの指摘で信用情報の誤登録を知ったのは3月。大半は12年12月以降の登録ミスで、全体では約6万3千件に上った。スマホなど複数の端末を分割払いで買い、12年12月から13年3月までの期間に、継続利用でたまる同社のポイントで支払った人が対象だ。
 ソフトバンクの社内のシステムでは正しい入金情報だったが、信用情報を集めている専門の機関に同社が送信する際、内容を誤った。「システムを更新する際、間違って設定を変更してしまったのが原因」と説明する。
 これとは別に、09年8月に家族などに名義を変えた人や、10年5月に代金の請求先を家族でまとめた人などの一部でも誤登録が見つかった。古いものは09年10月から続いていた。同社は8月上旬までにデータ修正。今後、個別に補償に入る。



◎金融業界で共有
 個人の信用情報は、どのように取り扱われているのだろうか?
 消費者がお金をどこで、いくら借りて、きちんと返しているのか把握するための情報が、信用情報だ。企業は、お金を貸したり、クレジットカードを発行したりする際の判断材料にする。銀行、クレジットなど主に業界ごとに情報を交換する仕組みがある。
 現在、信用情報を集めている機関は、クレジット会社などが加盟する「シー・アイ・シー」、消費者金融業者などの「日本信用情報機構」、銀行など金融機関の「全国銀行個人信用情報センター」の三つ。特に3カ月以上の延滞者などの情報は、各機関がお互いに見られるシステムになっている。
 今回の誤登録は、ソフトバンクが誤ったデータを信用情報機関に送ったために起きた。この誤った情報約6万3千件のうち約1万7千件が実際に照会された。ローンやクレジットの審査に使われ、影響があった可能性がある。



◎過去には314万件
 実は信用情報の登録ミスは過去にも繰り返されている。
 金融機関では、全国の信用金庫の共同システムで06年に314万件の誤登録が発覚。その後、各地の銀行でも次々に同様のミスが明るみに出た。借金そのものをしていないのに「延滞あり」とされたり、完済したはずのローンの残高が減っていなかったりしたケースもあった。
 原因は、やはりシステムの設定ミスが大半だ。日本弁護士連合会の情報問題対策委員長を務める清水勉弁護士は「システムのエラーは不可避。同様の問題は今後も必ず起きる」と警告する。
 信用情報機関は企業が登録する情報を管理するだけで、情報の中身を確かめるすべはない。清水弁護士は、一刻も早くミスを見つけ被害の拡大を防ぐには、個々の消費者からの訴えに目を向けるべきだと指摘する。「消費者は自分自身のことだから、すぐに警告を発することができる。システムエラーの場合、1件だけ起きたとは考えづらく・・・

購入する

この記事の続きは、WEB新書でお読みいただけます。

ネット情報の怖い話 個人データがひとり歩き・盗み見られる情報化社会の現実
216円(税込)
  • 著者丸山ひかり、杉原里美、兼田徳幸、田中誠士、高山裕喜、須藤龍也、松尾一郎、石田耕一郎(北京)
  • 出版社朝日新聞社
  • 出版媒体朝日新聞

身に覚えのない借金の滞納で、ローンを組めなかったら? ソフトバンクモバイルが顧客約6万人の信用情報を誤って登録していた問題は、不確かな個人情報が、自分の知らないところでひとり歩きする現代の情報ネットワーク社会の怖さを、まざまざと見せつける形となった。実は信用情報の登録ミスは、過去にも幾度となく繰り返されており、06年には314万件という大きな規模の誤登録が発覚した。問題は信用情報だけではない。実は国境を超えてインターネットを流れる情報の8割は、北米を経由しており、アメリカの政府機関の監視下にあるのだ。サイバー空間の情報の流れのあり方が、リアルな生活をも脅かす、ネット社会の暗部をえぐり出すレポート。[掲載]朝日新聞(2013年7月17日〜10月24日、7200字)

    スマートフォン、タブレットでも読めます。

    Facebookでのコメント

    このページのトップに戻る