経済・雇用
朝日新聞社

もう一度、ものづくり くすぶる中小企業にこそ「宝の山」

初出:朝日新聞2013年10月23日〜10月26日
WEB新書発売:2013年11月8日
朝日新聞

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 ほんの少しのムダを省けば、業績は劇的に回復――。日本中にある中小企業の現場を改善し、企業や地域の競争力を高めていこうとする動きが広がっている。東大ものづくり経営研究センターでは、現場の指導者育成に力を入れ、さらにノウハウを共有するネットワークも設立。中小企業と密接に関わる地方の金融機関や自治体そのものも、中小企業との単純な関係を脱し、「良い現場」を残すための試みを始めている。

◇第1章 ムダはまだ省ける、「受注後つくる」守って黒字化
◇第2章 中小の再生、地銀の生き残る道
◇第3章 カイゼン指導員、自治体が育成
◇第4章 今は夜明け前、潮目は変わる


第1章 ムダはまだ省ける、「受注後つくる」守って黒字化

 薄明かりの町工場は、製造設備や資材であふれかえっていた。生産ラインは複雑に入り組んで、見るからに効率が悪そうだ。
 2年前の2011年2月、山形大学教授の柴田孝(66)は、山形県米沢市の「玉澤精機」を訪れた。電線を配電盤などにつなぐ端子をつくる、どこにでもある中小企業だ。
 2代目で会長の玉澤昇(61)は当時、枝ぶりの良い木を見ては、「首をつれるかな」と心が乱れる日々を過ごしていた。08年のリーマン・ショックで受注量は激減していた。
 「宝の山だ」。資材の山があちこちにある工場を見渡した柴田が漏らした一言は、わらをもつかむ思いの玉澤にとって、まさに「福音」だった。



 柴田は、米沢のNECパーソナルコンピュータ出身のものづくり現場のプロだ。08年に山形大学に転じ、東大ものづくり経営研究センターと連携し、中小企業のものづくり現場の改善を手がける。
 その柴田が足を運んだのは、顧問を務める米沢信用金庫理事長の種村信次(74)に「めんどうをみてやって」と頼まれたからだ。
 赤字続きの玉澤精機に対しては、お金を貸していた米沢信金も支援を諦めかけていた。焦げつく恐れのある「不良債権」だった。
 柴田はNEC時代に一緒に働き、山形大でものづくり現場への指導法を学んだ長澤貞治(66)に、玉澤精機の改善指導を任せた。
 11年秋から、長澤の指導が始まった。週2回工場にやってきては、3時間の講義。「行動するには知識をつけなくては」と説く長澤に対し、自己流でやってきた玉澤や社長の大竹浩(61)らはまるで、ちんぷんかんぷんだった。
 だが、長澤の話を聞いているうち、少しずつわかってきた。例えば、生産ラインで、モノや作業を滞らせるボトルネックの部分を取り除き、「よい流れ」をつくることの大切さだ。
 複雑だった生産ラインを整理すると、工場スペースは3分の2になった。また、作業台に手を加えてみた。床から75センチから135センチの高さで作業すれば、働き手は疲れず効率は高まると知ったからだ。
 ほかにも、ムダはそぎ落とされていった。かつては受注がなくてもつくれるときに製品をつくり、材料も買えるときに買った。納期が守れないと困るからだ。だが、それは在庫の山をつくっただけだった。短い期間で確実につくれる自信があれば、受注後につくり始めても納期は守れる。
 必要なものを必要な時に、必要な量だけつくることを徹底した。社員12人の中小企業が、トヨタ自動車の「ジャスト・イン・タイム」を初めて理解した・・・

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もう一度、ものづくり くすぶる中小企業にこそ「宝の山」
216円(税込)

ほんの少しのムダを省けば、業績は劇的に回復――。日本中にある中小企業の現場を改善し、企業や地域の競争力を高めていこうとする動きが広がっている。東大ものづくり経営研究センターでは、現場の指導者育成に力を入れ、さらにノウハウを共有するネットワークも設立。中小企業と密接に関わる地方の金融機関や自治体そのものも、中小企業との単純な関係を脱し、「良い現場」を残すための試みを始めている。[掲載]朝日新聞(2013年10月23日〜10月26日、4900字)

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