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朝日新聞社

ソフトバンク・ネット財閥への道 爆速買収攻勢の全舞台裏

初出:朝日新聞2013年10月30日〜11月二日
WEB新書発売:2013年11月15日
朝日新聞

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 計画名は「コロンブス」ーー。2012年夏、ソフトバンク内に、財務、営業、技術など各部門の幹部約20人からなる秘密チームが組織された。計画名は、米大陸に乗り込むという思いをこめてつけられた。ターゲットは、米第3位の携帯通信会社・スプリント。買収が成功すれば、両社を合わせた売上高は、世界第3位になる。世紀の買収劇の始まりだった……。6月のスプリントに続き、世界最大の携帯電話卸会社の米ブライトスター、そして世界137カ国でダウンロード1位を誇るゲームアプリ開発会社、フィンランドのスーパーセルなど、超大型買収を次々に進めるソフトバンク。その「ビッグ・ゲーム」の裏に何があったのか?関係者の徹底取材で浮かび上がる、「ネット財閥」へ向けた進撃の道程。

◇第1章 曲折、ソフトバンク米へ
◇第2章 米要人ロビイングへ「傭兵」
◇第3章 「天下り」受け入れ、勝利つかむ
◇第4章 ソフトとハード、戦略の両輪


第1章 曲折、ソフトバンク米へ

◎電力買収・楽天包囲網 模索の末
 ソフトバンク社長の孫正義は、米投資銀行ゴールドマン・サックス(GS)日本法人社長の持田昌典の訪問を受けていた。2012年6月、東京・汐留のソフトバンク本社26階の役員応接室。持田は、米GS本社の投資銀行部門トップのジーン・サイクスを連れていた。
 持田が切り出した。「米国のスプリント・ネクステルという通信会社に興味はありませんか?」
 相手の懐に飛び込み、ビジネスにつなげるのが持田の手法だ。日本テレコムやボーダフォン日本法人など孫が手がけた数々の企業買収に、GSはかかわってきた。
 実はKDDIにも証券会社からスプリント買収の提案があった。だが、社長の田中孝司は「買収しても効果がない」と思った。好機をつかんだのは孫だった。
 その2カ月前の12年4月、孫は記者会見で、今後は「成長を重視する」と宣言。08年のリーマン・ショック後、信用不安に襲われたソフトバンクは、ピーク時に2兆6795億円あった有利子負債の返済を急ぎ、12年3月末までに1兆円超を返済していた。再び前向きの戦略に打って出る時だった。
 このとき孫の関心は、11年の東日本大震災以来の「脱原発」、そして自然エネルギーにあった。買収の「検討対象」に挙がった一つは、電源開発(Jパワー)だった。
 12年夏、民主党政権がめざす脱原発に共鳴した孫が、電源開発を買収し、建設中の大間原発(青森県)を止める――。そんな案が浮上する。「大間をやめると、4千億円超の損失が発生します」。幹部の進言に孫はこともなげにいう。「そんなのは損失を計上すればいい」
 だが、社外取締役を中心に取締役会は買収に否定的。民主党のエネルギー政策の中枢にいた元官房長官の仙谷由人が、脱原発に冷ややかなこともわかった。ソフトバンク財務部長の後藤芳光は「メガバンクが名を連ねる電源開発の株主構成を見れば、ウチが株式公開買い付けをしても応じるはずがない」と思った。
 相前後してライバルの楽天をくじこうと極秘会議も開かれた。参集したのはヤフー社長の宮坂学、かつて右腕だったSBIホールディングス社長の北尾吉孝ら。配布資料にはIT、金融、旅行代理業など「異業種連合による楽天の弱体化」をねらうとある。だが、各社の足並みがそろわず不調に終わる。
 残ったのが、スプリントだった。
 米国は、携帯電話1人あたりの月間売上高が日本と同水準で、スマートフォンによるネット利用が中心ユーザー。販売方法もCMを打ち、ブランド名を冠する専売店が売る。日本の経験を生かせそうだった。
 孫は13年の夏、照準をスプリントにあわせ、財務、営業、技術など各部門の幹部約20人の極秘チームを組織した。米大陸に乗り込むという思いを込めて、計画名は「コロンブス」とつけられた。
 孫は、スプリントのダン・ヘッセ最高経営責任者(CEO)と接触した。彼はかつてソフトバンクが出資したテラビームの社長を務め、米ソフトバンクのトップ、ロン・フィッシャーとは旧知の仲だ。孫の申し出をヘッセは快諾した。
 13年10月15日の会見で、孫は2メートル近い長身のヘッセと現れた。「売上高で世界3位の携帯通信会社になる」と語った。
 国内で競い合っていた通信3社のルールを突き崩す号砲が鳴った。だが、孫たちの「米国上陸」には、いくつもの壁が立ちはだかる・・・

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ソフトバンク・ネット財閥への道 爆速買収攻勢の全舞台裏
216円(税込)

計画名は「コロンブス」ーー。2012年夏、ソフトバンク内に、財務、営業、技術など各部門の幹部約20人からなる秘密チームが組織された。計画名は、米大陸に乗り込むという思いをこめてつけられた。ターゲットは、米第3位の携帯通信会社・スプリント。買収が成功すれば、両社を合わせた売上高は、世界第3位になる。世紀の買収劇の始まりだった……。6月のスプリントに続き、世界最大の携帯電話卸会社の米ブライトスター、そして世界137カ国でダウンロード1位を誇るゲームアプリ開発会社、フィンランドのスーパーセルなど、超大型買収を次々に進めるソフトバンク。その「ビッグ・ゲーム」の裏に何があったのか?関係者の徹底取材で浮かび上がる、「ネット財閥」へ向けた進撃の道程。[掲載]朝日新聞(2013年10月30日〜11月二日、5200字)

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