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政治・国際
朝日新聞社

ネットスパイ大国アメリカ 元職員インタビューから浮かび上がった諜報網の全貌

初出:2013年10月28日〜10月30日
WEB新書発売:2013年11月15日
朝日新聞

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 米国家安全保障局(NSA)による情報収集が、米国の威信を揺るがし続けている。世界中のデータを集め、同盟国の通信の傍受さえ明らかになった。朝日新聞はNSAで通信傍受に携わった元職員6人にインタビューし、ほぼ全世界のネット利用者を対象とした諜報活動の全貌をつかんだ。世界各地から発信されたデータの約8割が北米を経由するという「地の利」を活かし、「プリズム」「アップストリーム」「エックス・キースコア」という3つのプログラムを駆使したデータ収集・分析の手法、全世界の通信データ100年分を保存できるというNSAのデータセンター、NSA本部内にあるという極秘チーム、そして米軍のサイバーコマンドなど、世界の情報秩序を揺るがし始めた米国の暗部をレポートする。

◇第1章 傍受大国 遠い透明性
◇第2章 自由社会に染み込む監視
◇第3章 無人機攻撃 やまぬ批判


第1章 傍受大国 遠い透明性


 米国家安全保障局(NSA)による情報収集が、米国の威信を揺るがし続けている。世界中のデータを集め、同盟国の通信の傍受さえ明らかになった。浮かび上がってきたのは、米国が自ら理想として掲げてきた民主主義や透明性、人権の尊重から遠く離れた姿だ

◎「令状なし」を合法化
 「世界におけるアメリカのリーダーシップは、その民主主義と透明性にかかっている」
 2013年8月、オバマ大統領は、NSAの情報収集活動の見直しを宣言した。スノーデン元職員による告発以来、この問題でずっと守勢に立たされてきた政権を象徴する会見だった。
 だが、オバマ政権こそが、こうした秘密の情報収集活動を支えてきたのではないか。米通信大手AT&Tの元技術者マーク・クラインさん(68)も、そう考える一人だ。
 その建物には、窓がほとんどなかった。
 サンフランシスコ中心部にある同社ビル。クラインさんが03年1月、7階に足を踏み入れると、光ケーブルの基幹回線が「スプリッター」という装置で二つに分岐されていた。それぞれの配線には全く同じ情報が流れ、片方は6階の「641A」という部屋に引き込まれていた。
 不審に思ったクラインさんは同僚に話を聞き、社内資料を集めた。この部屋はAT&Tではなく、NSAの管理下にあった。ブッシュ政権(当時)による、捜査令状を取得しないまま実施された通信傍受の一環。「アップストリーム」と呼ばれるシステムで、インターネットの基幹回線から直接傍受する現場だった。


 05年に一部報道でNSAの令状なしの傍受が明らかになると、既に退職していたクラインさんは、通信傍受に反対する団体に内部資料を持ち込み、「プライバシーを侵害された」という訴訟に協力した。
 ところが、08年に改正案が成立した「対外情報監視法(FISA)」が立ちふさがる。ブッシュ政権下ではホワイトハウスの判断だけで行われていた令状なしの傍受が、一定の条件を満たせば合法となり、協力する通信会社も免責された。結果的に訴訟は敗れた。
 法改正を進めたのはブッシュ政権。だが、上院議員だったオバマ氏も関与した。大統領候補を選ぶ民主党予備選で改正案に反対の姿勢をとりながらも、指名を確実にしてからは賛成に転じた。クラインさんは嘆く。「改正案はオバマの助けで議会を通過したんだ」
 オバマ政権下で、改正法で確保した権限をもとにNSAの活動が続いた。最近になって、ドイツのメルケル首相ら世界の首脳の盗聴も発覚。メルケル氏の盗聴は最近まで続き、10年にNSAから知らされたオバマ氏も許可していた、という報道も出ている。各国が米国への批判を強める。
 「歴代政権で最も透明性を高める」。就任時のオバマ氏の宣言は、色あせた。

◎行き過ぎ防止、機能せず
 FISAとは本来は、議会と裁判所がチェックすることで、秘密性を保持しつつ情報機関の行き過ぎを防ぐ狙いの法律だ。
 NSAなどが米国内や米市民を対象に情報収集をする場合、特別な裁判所への令状請求や議会への報告を義務づけている。2001年の同時多発テロ以降、アルカイダなどのテロ組織に重点を置けるよう、たびたび改正されてきた。
 FISAが定める「特別な裁判所」とは、首都ワシントンの連邦裁判所の一角にある「対外情報監視裁判所(FISC)」だ。NSAの活動について問われると、オバマ氏は「乱用が起きないよう裁判所が監視している」と説明してきた。
 しかし、FISCの審理に出席できるのは政府側の弁護人だけ。内容や決定は原則非公開で、「秘密裁判所」とも呼ばれる。11人の裁判官は全員、最高裁長官が指名し、大統領や議会も選任に関与しない。
 FISCが議会に報告する年間統計によると、12年にあった傍受に関する令状請求1789件のうち、認められなかったのは政府が撤回した1件だけ。「NSA側を追認しているだけ」という批判が絶えない。

◎世界の情報「100年分保存」
 NSAの組織の拡大は、今も続いている・・・

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