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朝日新聞社

プロメテウスの罠〔37〕 給食に福島米「100%安心と言えないが」

初出:2013年9月29日〜10月18日
WEB新書発売:2013年11月22日
朝日新聞

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 福島市は2013年1月から学校給食に市産米を使い始めた。市に要請したのは、「子どもたちが福島米を食べれば安全性を全国にアピールできる」と期待した農協だった。だが、保護者の間に大きな波紋が広がり、弁当持参児童のいじめが心配された。農家の窮状と食べる側の不安を招いたのは原発事故だが、東電も国もつれない対応をするばかり。農協は自力で土壌や農産品の徹底検査、農家は放射線量の低下に日々取り組み、保護者に本音をぶつける。だが、安全性への疑念が消え去る日は来るのか……。

◇第1章 「命をかけて売る」
◇第2章 東電社長にカチン
◇第3章 扱ってもらえない
◇第4章 ちょっと待ってよ
◇第5章 親たちから猛反発
◇第6章 使用中止は求めない
◇第7章 正確に20ベクレル測れるか
◇第8章 全量検査してほしい
◇第9章 ご飯は持たせない
◇第10章 後悔したくないの
◇第11章 親としても悩む農家
◇第12章 会って直接話そうよ
◇第13章 百%安心と言えない
◇第14章 こういう人の物なら
◇第15章 農地すべて調べよう
◇第16章 生協、協力を即決
◇第17章 公表か否か意見二分
◇第18章 皮肉な利害の一致
◇第19章 判断に時間がほしい


第1章 「命をかけて売る」

 2012(平成24)年12月。福島市内の小中学校の保護者あてに、学校から通知が届いた。
 「今後の学校給食用米飯については、厳重な検査体制のもと、平成24年福島市産コシヒカリを提供してまいります」
 学校給食に福島市のコメ?
 子どもに食べさせて大丈夫か。だれがそんなことを決めたのか。検査はどうなっているのか。
 保護者に動揺が広がった。
 通知の主は市の教育委員会になっている。しかし、それを市に働きかけたのは農協だった。
 原発事故から3週間後の11年4月5日。福島市に本店があるJA新ふくしまの組合長、吾妻雄二(あづまゆうじ)(66)は300人の農家を市郊外の西部共選場に集めた。ある「覚悟」を伝えるためだった。
 そのころ市内では放射線量が毎時2・5マイクロシーベルトと高く、福島県産の原乳やホウレン草などから基準値超えの放射性物質が相次いで見つかっていた。
 農家は困惑していた。
 「作り続けても大丈夫なのか」
 「耕作を休み、東京電力に賠償金を求めた方がいいのでは」
 吾妻のもとには、そんな声が寄せられていた。田植えの準備が始まる時期だが、作付けをためらう農家が増えていた。
 共選場に集まった農家を前に、吾妻は声を張り上げた。
 「農協が命をかけて売る」
 「作ってほしい。こういう時こそうまい作物をつくって、福島の味を全国に知ってもらおう」
 吾妻がこだわったのは、離農者増加への懸念だ。担い手の多くは高齢者。いちど耕作を休めば、多くはもう戻って来ないだろう。
 場内はざわついた。
 「住むことさえできなくなるかもしれないのに、本当に責任を取れるのか」。そんな質問も出た。
 吾妻は譲らなかった。「とにかく皆で頑張ろう」
 吾妻の気迫に、最後には反対意見は出なくなった。
 その後数日、吾妻ら幹部が20カ所の会場を回り、3千人の農家に営農継続の方針を説明した。
 「命をかけて売る」は、農家に対する農協の公約となった。



第2章 東電社長にカチン

 「米や果物を作ってくれ。命をかけても売る」。福島市のJA新ふくしま組合長、吾妻雄二(66)がそう宣言した10日後だった。
 2011年4月15日、吾妻は福島県内の農協組合長ら20人で東京・内幸町の東京電力本店に向かった。「万全な補償と速やかな支払い」を要望するためだ。
 午前11時に社長の清水正孝(しみずまさたか)(69)と面会の約束を取りつけてあった。それに間に合わせるため、会津など遠隔地の組合長は朝5時すぎに自宅を出た。1人往復2万円弱の交通費は農協が負担した。


 1階の玄関ロビーで待っていると、清水ら幹部数人がエレベーターで降りてきた。応接室にでも通されるのかと思ったが、そうではなかった。その場で話が始まった。
 玄関ロビーは大勢の部外者が行き交う。そんな中、20人は立たされたままだった。
 県内の農協を束ねるJA福島中央会の会長、庄条徳一(しょうじょうとくいち)(70)が清水にA4判2枚の要望書を手渡した。農協側の説明が終わると、清水は要望書を折って職員に渡し、後ろを向いて去ろうとした。
 吾妻はカチンときた。本来なら東電社長の方が福島に来て頭を下げ、話を聞かせてくださいというべきなのに。吾妻は後ろの方にいたが、思わず声を上げた。
 「立たせたまま、要望書を半分に折って持ち帰るとは何事か! 人をばかにするんじゃない! われわれは本気になって闘うぞ・・・

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