【お知らせ】WEB新書は閉店しました。

教育・子育て
朝日新聞社

何で英語に苦労させられるの 日本人が逃れられない呪縛の真実

初出:2013年11月5日〜11月21日
WEB新書発売:2013年11月29日
朝日新聞

このエントリーをはてなブックマークに追加

 「英語を話せるようになりたい」。実はアナタも毎年そんな目標を立てているかもしれない。もちろん、うまくいった試しはない。「受験の時はあんなに覚えたのに……」。近くにいる元帰国子女や留学経験者がちょっと輝いて見えて、こっそり英会話教材を買ってしまったこともあるかもしれない。話したい日本人はたくさんいるのに、実際に話せる人はとても少ない。何か間違っているんじゃないか。一体、何が? 日本における英語、一緒にたどってみませんか。

第1章 ぬるい授業、ばかじゃないの?
第2章 透明な壁にぶちあたった
第3章 人材不足は教育のせい?
第4章 実用主義か、知的訓練か
第5章 左から右に理解する
第6章 「竜馬の先読み」が生んだ試験
第7章 金曜夜の議論「背が伸びる」
第8章 フェンス越し、小さな変化
第9章 アスリートは、すごい自己流
第10章 もう、やめにしませんか


第1章 ぬるい授業、ばかじゃないの?

 ずっと抱いている疑問がある。私たちは、どうしてこんなに英語に苦労させられるのか。
 それを考えるため、北関東の男子高から話を始める。
 栃木県立宇都宮高校。英語部が2012年12月の全国高校生英語ディベート大会で初優勝し、参加250校の頂点に立った。
 ディベートは「知的格闘技」とか「言葉のボクシング」といわれる。与えられた論題について賛成・反対に分かれ、ルールにのっとり討論するゲームだ。
 ならば英語ディベートは、読む・書く・聴く・話すの4技能すべてが求められる「英語の総合競技」といえる。


 二十数年前、社会人の勉強会で少しかじったことがある。難しかった。それを高校生が?
 宇都宮高校で練習を見た。
 論題は何だったか忘れた。いや、聴き取れなかった。話すのが速い。攻撃も防御も、びしばし。これはすごい。
 顧問の英語科教諭、有坂由美(46)の指導がぼんぼん飛ぶ。厳しい。まるで体育系の部活だ。でも「こう主張しなさい」などと上から目線では言わない。「どう言えばよかった?」と、引き出す。
 ただし、発音は日本人的な生徒が多い。人によっては「あー」とか「うー」とかも入る。12年の優勝チームに帰国子女はゼロ。「入学時は全然話せなかった」という生徒もいた。
 英語がペラペラでなくてもディベートに勝てるのか。当時のチームに集まってもらった。
 前部長の小間悠生(17)は「宇高の強さは議論の強さ。帰国子女のペラペラ英語に勝つのが楽しい」という。
 対戦相手には、英語教育の重点校や海外経験豊富な生徒を並べた高校もある。どう勝負したのか。前副部長の小田卓弥(18)は「言葉の情報量では帰国子女の英語には勝てない。少ない言葉で反論できるようにした。ぼくらは相手の主張の幹を切る」。ここぞというところを、ひと太刀で攻めるわけか。
 そういう発想をどうやって身につけたのだろう。
 有坂が宇高に異動してきた3年前のこと。外国語指導助手(ALT)が教える授業を見て、びっくりした。
 全部英語で教えるから、ではない。「今何時ですか?」といった中学生レベルの「英会話」をさせていたからだ。生徒たちに尋ねたら「つまんない」「遊び」「息抜きの時間」という。
 「そのALTに『ここの生徒にこんなことをやらせるなんて、ばかじゃないの』と言ってけんかしました」
 教室に英米人がいても、内容が生徒の知的水準にあわなければ、生徒は学ばない。
 でも、彼らの知的関心にあう内容を英語で表現し、議論する場を与えたら、目を輝かせて成長していった。10代の英語力とはこんなに伸びるものなのだ。ここにヒントがありそうだ。
 だがその後、彼らはとんでもない壁にぶちあたる。


第2章 透明な壁にぶちあたった

 宇都宮高校英語部の男子たちの話を続ける。
 全国高校生英語ディベート大会で優勝した彼らは、2013年初めにトルコであった世界大会に日本代表として参加した。
 世界の舞台はどうだったか。
 副部長だった小田卓弥(18)は「透明な壁にぶちあたったみたいでした」と振り返った。「これまでとは違うステージに立たされた。相手にぶつかりたいのに、ぶつかれない」
 え、ぶつかれないって?
 予選の相手はタイ、トルコ、チェコ、アラブ首長国連邦、スウェーデン、インド、レバノン、ボスニア・ヘルツェゴビナの8カ国。英語を母語にする高校生ではない。
 それでも、スピードや語彙(ごい)力は段違いだったという。嵐のように主張が飛んでくる。ずらずらずらっと論拠を並べ、こちらが出した論拠を次々と破る。
 英語部顧問の有坂由美(46)は「惨状」と表現した。「見ていて、つらかった。自分たちが育てた生徒が、こんなにハンディを持たされているとは。世界とこんなに距離があったとは」
 結果はレバノンに勝っただけで1勝7敗。審判から「講師を送ろうか」とまで言われた。
 急いで書いておくが、彼らの1勝は快挙だ。日本代表として3年ぶりの勝ち星なのだから。
 今回も含め、日本は7回出場して4勝52敗。「世界」との差は何なのだろう。英語力か、議論力か、それとも両方か。
 生徒の話に、どきっとした・・・

このページのトップに戻る