科学・環境
朝日新聞社

ミジンコはメスしか産まない 「バカみたい」で突出する研究者たち

初出:朝日新聞2013年11月26日〜12月1日
WEB新書発売:2013年12月13日
朝日新聞

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 国内トップクラスの研究者たちが集い、コケ類から魚類、哺乳類まで、あらゆる生物現象を探る基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)。あまりに奥深い研究の根源にあるのは、「もっと知りたい!」という単純かつ強い欲求だ。ミジンコ、ハエトリソウ、メダカ、マメ、ショウジョウバエ……。研究対象には、どこか懐かしい響きがある。子どものころに感じたような「なぜ?」を、とことんまで突き詰めようとする研究者たちの一途な姿を追った。

◇第1章 ミジンコの「性」切り込む
◇第2章 食虫植物進化の謎、今も
◇第3章 メダカ「目高」な識別力
◇第4章 マメ科、味方の菌と同居
◇第5章 生命の系譜 ハエで解明


第1章 ミジンコの「性」切り込む

◎卵平常時はメス、異常時オス
 岡崎市の基礎生物学研究所にはミジンコの性を深く、深く考えている研究者がいます。研究室をのぞいてみると――。
 にこやかな笑顔が印象的な井口泰泉教授(62)。「生き物の中には環境の変化で性が決まったり、気温によって変わったり。奥が深いですよ」という。
 例えば――。


 ミジンコは通常、メスしか産まない。交尾は必要なく、メスだけ(単為生殖)で3日に1度ほど、30個以上の卵を産み、背中に背負うようにして卵を育てる。


 ところが、餌の藻類が不足したり、水温が下がったりすると、オスばかりが生まれるようになる。
 オスは、近くにいるメスと交尾。そうすると、メスは「耐久卵」という卵を二つだけ産む。この耐久卵から生まれるのは、またメスばかりだ。
 耐久卵は乾燥にめっぽう強い。「机の上に100年置いておいても、水に戻すとミジンコが生まれてくる」と井口教授。「数を減らし、その代わりに強い卵をつくるという、生き残るための戦略です」


 仕組みはどうなっているのか。井口教授は2003年、色んな物質をミジンコにかけ、何が起きるかを実験で確かめてみた。すると、ある薬をかけた時、オスばかりが生まれた。
 ペット用のノミ取り薬。
 薬の成分である「幼若(ようじゃく)ホルモン類似物質」がオスばかりが生まれるようになる原因だと突き止めた。
 ミジンコは生息環境が悪くなると、体内で幼若ホルモンをつくるらしい。その結果、オスが生まれる卵だけを産むようになるのだという。
 この結果をもとに、オスだけで働く遺伝子を特定し、「ダブルセックス1遺伝子」と命名。「ミジンコの遺伝子数は3万以上で、ヒトより多い。調べるのが大変でした」と笑う。
◎ワニ、30度でメス、33度でオス、35度でメス
 そもそも、井口教授が性別の決定を調べ始めたのは、ワニがきっかけだ。
 ワニの卵を気温30度で育てるとメスが生まれ、33度だとオスが生まれる。35度だとまたメスに。31・5度で調べると、ほぼ半々の割合で生まれた。
 一方、カメの場合は26度でオス、30度でメスになった。ヘビはヒトと同じく性染色体で性別が決まり、気温には左右されない。
 「その理由をワニで説明しようとすると、カメでうまくいかなくなる。なぜかは分かっていません」
 とは言え、井口教授は孵化(ふか)前の卵を使い、ワニには温度を感知するたんぱく質があるのを発見。一歩ずつ、解明に歩みを進めている。「すべてを突き止めるには、実験で確実に分かったことを積み上げるしかないんです」
 さらに井口教授は、米航空宇宙局(NASA)で、NASAから依頼を受けた研究も手がけている。
 テーマは「ロケットの燃料がNASA周辺のワニに与える影響」。
 奥が深い・・・

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ミジンコはメスしか産まない 「バカみたい」で突出する研究者たち
216円(税込)

国内トップクラスの研究者たちが集い、コケ類から魚類、哺乳類まで、あらゆる生物現象を探る基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)。あまりに奥深い研究の根源にあるのは、「もっと知りたい!」という単純かつ強い欲求だ。ミジンコ、ハエトリソウ、メダカ、マメ、ショウジョウバエ……。研究対象には、どこか懐かしい響きがある。子どものころに感じたような「なぜ?」を、とことんまで突き詰めようとする研究者たちの一途な姿を追った。[掲載]朝日新聞(2013年11月26日〜12月1日、6100字)

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