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朝日新聞社

泡沫(パオモー) 中国バブル大崩壊の足おとが聞こえる

初出:2014年1月8日〜1月11日
WEB新書発売:2014年1月31日
朝日新聞

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 極めて短期間のうちに、世界2位の経済大国に駆け上がった中国だが、民間の貸金業が規制される中で広がった「民間借貸」など、銀行以外の貸し出しの額は、GDPの8割を超えた可能性が指摘されている。これが事実であれば、その規模は700兆円以上にも達し、日本のGDPをも軽く超えていることになる。「影の銀行」が支える「泡沫(中国語でパオモー)」は、いつ、どんな形ではじけるのか? 過熱するマネーゲームの影で堆積するリスクを抉りだすルポ。

◇第1章 成り金、一夜で消えた街
◇第2章 人民銀、瀬戸際の「荒療治」
◇第3章 投資ブーム、暗黙の政府保証
◇第4章 地方財政、危うい錬金術


第1章 成り金、一夜で消えた街

 夜8時半。落ち着いたベージュ色の高級マンション十数棟が、闇夜にそびえる。
 約半数は17階建てだが、70室近くのうち明かりがともる部屋は、五つにも満たない。敷地の入り口では、男性警備員が直立して目を光らせる。
 中国沿海部の浙江省温州市。高層ビルが並ぶ中心から5キロ離れた静かな幹線道路沿いに、そのマンション群はある。


 2年半前には1平方メートル5万元(約85万円)をつけていた。半額に下がったいまも、住む人は少ない。
 「中国経済の風向計」。温州はこう呼ばれる。起業精神に富み、全国の先陣を切って靴や衣服をつくる私企業を生んだ。世界を渡り歩く温州商人は「中国のユダヤ人」とも呼ばれる。
 その温州で、不動産価格の下落が続く。2013年11月まで27カ月連続だ。
 3年前の正月だった。「大変なことが起きる」。温州中小企業発展促進会会長の周徳文は予感した。周りの経営者たちが、高金利で貸しつける「民間借貸」と呼ばれる金融業に手を染めていたからだ。
 手元の資金だけでなく、銀行などから借りたお金をまた貸しするケースもあった。低利で集めたお金を年利2、3割で貸し付ければ、本業よりも、ずっともうかる。温州の半分以上の企業が参入し、その取引規模は、11年前半の半年だけで1100億元(約2兆円)に達したとされる。
 周の予感は的中する。その夏、景気の過熱感を冷まそうと、中国政府が13年秋から続けていた金融政策の引き締めが効き始めた。気前よく貸していた銀行が、目いっぱい借りて不動産につぎ込んできた経営者らに返済を迫ったのだ。
 ステンレス大手の創業者、「家電王」の女性経営者……。ロールスロイスやフェラーリを何台も乗り回していた社長たちは、一晩のうちに姿を消した。
 あっという間に「夜逃げ」は広がった。温州市内の1地区だけで、ひと月に100社前後がつぶれた。
 温州市中心部で店舗を構える「21世紀不動産」店長、張仁輝(30)はあきらめ顔だ。「競売物件が山のように出てくる。地価は上がりっこない」
 借金のカタにとられた不動産が、裁判所の委託でネット競売でたたき売られる。12年に前年から倍増の約1千件、13年はそれをさらに2割上回る。
 民間の貸金業が規制される中国で広がった「地下金融」バブルの崩壊。その足音は、他でも聞こえてくる。
 温州から北西へ約800キロ。江蘇省徐州の郊外には、中国では珍しい一戸建てが立ち並ぶ。各住宅は10部屋近くもある豪華なつくりだ。ただ、窓はところどころひびが入り、中庭の噴水は枯れている。工事が止まっているのだ。
 開発したのは、徐州でも「4大富豪」の1人と呼ばれた不動産業者。2年前に資金が行き詰まった。経営幹部の親族の女性は、朝日新聞の取材に対し、「工事を続けようにも、まだ1億元(約17億円)足りない。銀行はお金を貸してくれない」と言葉少なに話した。
 民間借貸をはじめ、「影の銀行」とも呼ばれる銀行以外の貸し出しの額は、「全国で13年末に中国のGDPの8割を超えた可能性がある」(米大手銀JPモルガン・チェースのエコノミスト朱海斌)。
 事実ならば「影」のバブルの規模は700兆円以上にも達する。日本のGDPも軽く超える。
 危機は局地的で、制御可能だ――。中国政府は繰り返す。しかし、温州大学国民経済研究所長の胡振華は「『風向計』で起きたことは、中国全土に広がる可能性が高い」と指摘する。
 追い風は、逆風に転じた・・・

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