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経済・雇用
朝日新聞社

TPP最終攻防の舞台裏 日本の「農産物の関税維持」で合意できるのか

初出:2014年1月15日〜1月18日
WEB新書発売:2014年2月7日
朝日新聞

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 関税撤廃、貿易自由化が原則のTPP(環太平洋経済連携協定)だが、2013年末の妥結に向けた交渉は失敗に終わった。日本が農産物「重要5項目」の関税維持を主張し、米国が原則に従い妥協を許さなかったからだ。日本は国益を最優先させる米側の議事進行に不満を抱いた。オバマ大統領と安倍首相はどう出るのか。そもそもTPPにどんなメリットがあるのか。妥結を前提にした秘密シナリオやウィキリークスが公開した米国の内部資料をふまえ、日米両国の攻防の舞台裏を明かす。

◇第1章 譲らぬ米、甘利氏誤算/関税巡り平行線、年内妥結果たせず
◇第2章 米、妥協許さず「シナリオ」崩壊
◇第3章 コメや牛肉、守れるか瀬戸際
◇第4章 実務者がつなぐ細い糸


第1章 譲らぬ米、甘利氏誤算/関税巡り平行線、年内妥結果たせず

 2013年12月1日昼、ホテルオークラ(東京・虎ノ門)の日本料理店「山里」。米通商代表部(USTR)代表のマイケル・フロマン(51)を待つTPP担当相の甘利明(64)の隣には、店の裏口から忍び入った官房長官の菅義偉と農林水産相の林芳正の姿があった。ふたりの同席はフロマンにも知らせない「サプライズ」だった。
 オバマ大統領のハーバード大時代の同級生で「腹心」としても知られるフロマンは、5時間だけ日本に立ち寄った。シンガポールでの閣僚会合を6日後に控え、目標に掲げた「年内妥結」に向けて「最終決戦」に挑むためだ。
 交渉を年内にまとめようと、甘利とフロマンは10月から何度か電話会談を重ねてきたが、交渉は一向に進まなかった。すべての輸入品の関税をなくすよう要求するフロマンに対し、コメや乳製品など「重要農産物」の関税を残すことが甘利にとっても譲れない一線だからだ。
 平行線が続くうち、甘利と話し合っていても譲歩は引き出せないと考えたのか、フロマンが少し前から菅や林との会談を要求してきた。甘利が菅と林を連れて交渉にのぞんだのは、安倍政権が「一枚岩」だと見せつけるねらいだった。
 「日本は農産物の話ばかりでずるい。今日は自動車を話し合おう」。菅を見ながらフロマンは切り出した。輸入が急増した場合に高い関税に戻すなどの米国の要望に「内諾」を引き出したかったようだ。だが、菅は「TPPの担当は甘利だ」と相手にしなかった。
 「農産物の関税維持を少しも認めないなら(閣僚会合を開く)シンガポールにはもう行かない」。甘利は菅の発言を受けて、強気のカードを切ってみた。だが、結局、フロマンには通じなかった。料理は一品も出ず、コップの水だけで2時間が過ぎた。
 7月から途中参加した日本は、知的財産の分野などで対立する米国とマレーシアやベトナムなど新興国との「調整役」を意欲的に担った。知的財産の中間会合を急きょ、東京で開いたこともある。そこには、日本の唯一の弱みである農産物の関税を認めてほしい、との思惑もあった・・・

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