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朝日新聞社

日本安倍放送協会なのか 政権に寄り添う公共放送が広報放送になるとき

初出:2014年1月31日、2月1日
WEB新書発売:2014年2月14日
朝日新聞

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 安倍首相は第1次安倍政権時よりも慎重かつ強引に、古風で勇ましい自身の国家観を実現させるべく次々と布石を打つ。秘密保護法の次は、憲法改正、集団的自衛権行使などを視野に、「強い日本」を国内外に広報するメディアの取り込みにも余念がない。中立性が信条の公共放送も例外ではなく、歴史認識、原発問題で考えの近いNHKの新会長や経営委員の一部がすぐに反応。政権に寄り添う問題発言をして波紋を呼んだ。日本はどこに向かうのか。海外の事例も紹介しつつ、公共放送への政治介入を問う。

◇第1章 NHK、問われる政治との距離 歴史認識・原発問題
◇第2章 NHK会長、国会で陳謝 「個人の意見、放送に反映させない」
◇第3章 新会長発言、報道に開き NHK、国会の模様だけ紹介
◇第4章 欧州、人事や報道巡り火花


第1章 NHK、問われる政治との距離 歴史認識・原発問題

 NHKの最高意思決定機関・経営委員会が2014年1月15日に開いた会合。作家の百田尚樹委員が「尖閣諸島や竹島の問題、靖国神社に関する極東軍事裁判や在日朝鮮人・韓国人に関わること」について、「必要最低限の知識を伝える番組があってもよい」と発言していた。
 会合は非公開だが、関係者への取材でわかった。経営委員は番組編集に関する基本計画を決めることができるが、「個別」の番組への干渉は禁じられている。「個別とはどの程度を指すか」をめぐり議論も起きた。「異例の発言だ」とみる委員もいる。
 また、1月30日放送のラジオ番組では、都知事選告示後であることを理由に、出演者が脱原発をテーマに話をすることが認められなかったことがわかった。番組に20年以上出演している東洋大教授の中北徹氏が、原発稼働に関するリスクを指摘する原稿案を放送前日にディレクターに見せたところ、テーマの変更を求められた。中北氏は番組出演を中止した。
 あるNHK職員は「籾井発言が残した傷痕は深い。現場が考えすぎて、萎縮している」と話す。

◎NHK会長人事、政権布石
 1月30日の参院本会議。民主党の江崎孝氏は籾井勝人・NHK会長の問題を取り上げ、安倍晋三首相や菅義偉官房長官に答弁を求めた。
 「籾井氏の発言を今でも個人的見解と擁護するのか」と江崎氏がただしたのに対し、菅長官は「放送機関トップの個別の発言に、政府としてはコメントすべきではない」と答弁した。
 安倍政権は今回の会長人事について「首相や官房長官は関与しなかった」(官邸スタッフ)と強調している。しかし政権内では松本正之・前会長時代のNHKに対し、原発などの報道をめぐり不満がくすぶっていた。13年10月、会長の任免権を持つ経営委員人事で布石を打った。歴史認識などで安倍首相に近い作家の百田尚樹氏ら5人の人事案を国会に提示、同意を得た。
 菅長官は06年9月、第1次安倍内閣発足に伴い総務相に就任。NHKに受信料の2割値下げを求めるなど改革を迫った。
 07年には安倍首相に近い富士フイルムホールディングスの古森重隆社長(当時)が経営委員長に内定した。安倍・菅両氏のラインで固めたとされる。
 安倍首相は1月30日の参院代表質問で、民主党の江崎氏から「経営委員のあり方を含め、放送法の改正を検討すべきだ」と迫られたが、こう突っぱねた。
 「NHK経営委員の選任について両議院の同意を得て任命することとしており、民意を反映させる仕組みとなっている」

◎不祥事、介入余地生む
 NHK会長の任免権や、予算の議決権などを持つ経営委員会。かつては「名誉職」といわれ、機能を発揮していなかった。08年に常勤委員を置くなど、機能が強化された。
 背景には、紅白歌合戦のプロデューサーによる制作費着服など相次いだ不祥事と受信料の不払い運動があった。経営委を強化し経営を立て直す必要があった。
 だが、その経営委を通じて、安倍政権は会長交代劇で影響力を行使した。「NHKへのガバナンス(統治)強化という名の下、政治が経営に直接介入する余地が生まれてしまった」とNHK関係者は振り返る。
 経営委強化などのたたき台をつくったのは竹中平蔵・総務相(当時)の私的懇談会「通信・放送の在り方に関する懇談会」。竹中氏の秘書官だった慶応大院教授の岸博幸氏は籾井氏の発言について、「『うちは日本政府の御用メディア』と言ったことと同じ」と話す。
 ただ仕組みの改善は難しそうだ。懇談会の座長を務めた東洋大の松原聡教授は「経営委員が国民を代表する国会の多数で決まるのは当然。それが民主主義だ。会長を選んだ委員に問題があるなら委員を送り込んだ政権に次の選挙で『ノー』というしかない・・・

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