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経済・雇用
朝日新聞社

異端農協の挑戦 「農家のための農協」を取り戻せ!

初出:2014年3月26日〜3月29日
WEB新書発売:2014年4月11日
朝日新聞

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 北陸に、全国から視察が相次いでいる小さな農協(JA)がある。視察に来たのは、青森、秋田、新潟、富山、石川、三重などの地域JAだ。どこも上部組織には内緒の隠密行動。この日の取材も、名前を伏せることが条件だった。関心は、このJAが2012年から踏み切ったコメの全量直売にある。ここは全国に701ある地域JAでひとつだけ、コメを全量、卸業者などに直接販売しているのだ。JAグループにありながら、グループ依存からの脱却をめざす。そんな「異端農協」が掲げているのは、あたりまえのはずの「農家のための農協」だ――長く続いた減反政策の矛盾と、それを突破しようと行動を始めたリーダーたちの姿を追った、「食」に関心を持つ人すべてのためのノンフィクション。

◇第1章 禁断直売、農家のため/全国のJAから隠密視察
◇第2章 依存から脱却へ、資材を独自調達
◇第3章 大規模法人と相通じる危機意識
◇第4章 幻のコメ復活、大波に挑む


第1章 禁断直売、農家のため/全国のJAから隠密視察

 北陸に、全国から視察が相次いでいる小さな農協(JA)がある。
 福井県のほぼ中央にある越前市。遠く望む山並みは雪で覆われている。市街地にある「JA越前たけふ」本店に2014年3月6日、大型観光バス1台が到着した。一行36人は長野県内のJAの幹部たちだ。
 13年7月以降を数えても視察はこれで12件目。青森、秋田、新潟、富山、石川、三重などの地域JAだ。どこも上部組織には内緒の隠密行動だ。この日の取材も、名前を伏せることが条件だった。
 関心は、越前たけふが12年から踏み切ったコメの全量直売にある。ふつう、地域JAは農家から集めたコメを上部組織の経済農業協同組合連合会(経済連)や全国農業協同組合連合会(全農)を通して販売する。ところが、ここは全国に701ある地域JAでひとつだけ、コメを全量、卸業者などに直接販売しているのだ。


 JAグループにありながら、グループ依存からの脱却をめざす。そんな「異端農協」が掲げているのは、あたりまえのはずの「農家のための農協」だ。
 JA越前たけふはなぜ、コメの全量直売に踏み切ったのか。背景に、深刻な農協離れがある。農林水産省によると、国内で生産されるコメのうち、農協に出荷される割合は年々低下し、11年産は41・8%。JAを通さずに卸業者や消費者に直販する農家が増えているためだ。
 越前たけふも同じだった。「よその方が高く買ってくれるから」「精魂込めたコメをほかの農家のコメと混ぜられるのはかなわん」。90年代以降、やる気のある大規模専業農家に限って、そう言い残して離れていった。組合長の冨田隆(71)は自問自答を繰り返した。
 《やる気のある農家ほど離れていく農協とは、一体何なのだろう。農家のための農協に立ち戻るには、何をすればいいのか》
 その答えが、08年に始めた減農薬、減化学肥料によるコシヒカリの「特別栽培米」づくりだった。
 「安全安心なブランド米を売り出し、味のいいコメをつくった農家には買い取り価格を上乗せしたかった」
 冨田は早速、買い取り価格を上乗せしてくれるよう経済連にかけ合った。だが断られる。「特別扱いはできない」という理由だった。農家の手取りを多くするには、直売しかなかった。
 農協が流通ルートから離れられない一番の理由は・・・

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