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医療・健康
朝日新聞社

「わたし」が最期を生きる時 治療、ケア…どこまで望むのか

初出:2013年11月16日〜2014年1月25日
WEB新書発売:2014年4月25日
朝日新聞

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 誰にでも必ず訪れる人生最期のとき、誰もが何らかの選択をしなければいけません。どんな終末期医療を受けたいのか、家族と話し合ったことはありますか。何らかの形で自分の意思表示をしていますか。自分以外の家族については、どうですか。抗がん剤、胃ろう、人工呼吸器……延命治療の形だけでも様々で、それぞれに対する考え方も千差万別。自分は、家族は、人生の終末をどう迎えたいのか。悩み、苦しみ、決断した人たちがいます。

◇第1章 「その時」自分らしく
◇第2章 胃ろう、心揺れた日々
◇第3章 呼吸器つけ生き抜く
◇第4章 母の気持ち、寄り添う
◇第5章 兄の臓器提供、突然に
◇第6章 尊厳死に法なじまぬ/周防監督に聞く


第1章 「その時」自分らしく

延命、意思を書面に
 シューッ、シューッ。
 酸素マスクをつけているのに、苦しい。空気の中で溺れているみたいだ。
 2013年3月末、内部(うちべ)利雄さん(59)は島根大病院のICU(集中治療室)のベッドの上にいた。この日の朝、重症の肺炎を起こし、救急車で運ばれた。
 「肺に直接、酸素を入れる、機械を、使って」。マスク越しに医師に頼んだ。
 「酸素マスクの方が体に負担がない」と勧められたが、拒んだ。呼吸を整え、早く肺炎を治したかった。人工呼吸器の太いチューブが口に固定された。
 3日後、自分で呼吸できるようになった時、こわくなった。「次に運ばれる時、意識があって自分で決められるとは限らない」
    ◇
 島根県出雲市で母(85)と2人で暮らす。7年前、膠原(こうげん)病の一種と診断された。細菌などの外敵から体を守る免疫の仕組みに異常が起きる難病だ。
 肺の機能が衰えるなど、病状は徐々に進んだ。3年前に警備会社を退職。趣味のオートバイにも乗れなくなった。
 できないことが一つ、また一つと増えていく。
 新聞を読んだり、色んな人と話したり。今の自分にできることを楽しみながら生きたい。でも、意識がないまま生かされたら、自分じゃない。
 いつしかそう感じるようになった。3月の入院で、その気持ちは強まった。
    ◇
 「治療のこと、書面で残したいんだけど」
 9月、島根大病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)の太田桂子さん(52)を訪ね、終末期医療の意思を示す「事前要望書」の説明を受けた。
 「心臓マッサージなどの心肺蘇生」「人工呼吸器の装着」など延命治療についての意思が電子カルテに登録される。「内容はいつでも変更できます」という説明に安心した。
 4日後、還暦祝いで帰省した長女(37)と次女(33)を自室に呼び、全ての治療を「してほしくない」とした要望書を見せた。
 2人は、黙って読み始めた。「延命治療はされたくないと思うちょう」。15分ほどして切り出すと、長女は「前からそう言いおったし、言うようにする」。次女は「わかった」と応じた。
 母や遠くで暮らす弟にも気持ちを伝えた。翌週、自分と家族全員の署名が並んだ要望書を病院に出した・・・

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