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教育・子育て
朝日新聞社

プロメテウスの罠〔45〕 中高一貫校「双葉郡に日本初の実験校新設」

初出:2014年4月2日〜4月16日
WEB新書発売:2014年5月16日
朝日新聞

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 「必要なのは、子どもたちに問題解決能力をつけさせる学校だ」「笑顔で世界とつながる学校にしたい」――原発事故後、福島県双葉郡8町村の子どもたちは県内外に避難し、逆境の中で落ち着かない生活を送ってきた。だが2015年春、日本で初めて子どもたちの意見を尊重し、学校運営に生かす中高一貫校が広野町に開校する。毎月、小学生も参加して議論を重ねている「子供未来会議」とは何か。子どもたちの夢や支える大人らの思いを丁寧に追い、被災地に新設される県立実験校の意義と教育復興への取り組みを伝える。

◇第1章 「父は東電社員です」
◇第2章 双葉郡子供未来会議
◇第3章 1年だけのつもりで
◇第4章 人生をかける仕事
◇第5章 生徒会長の心の時計
◇第6章 このままではジリ貧
◇第7章 ひざをたたいた提案
◇第8章 「教育の島」に学ぶ
◇第9章 ふるさとを失う意味
◇第10章 人を育てる「夢ゼミ」
◇第11章 世界に学ぶ「復元力」
◇第12章 日本で最初の実験
◇第13章 見守るおばちゃん
◇第14章 踏み出せば未来開く


第1章 「父は東電社員です」

 2012年3月11日。福島県二本松市で、原発事故についての中学生による討論会があった。
 ウェブ上の動画配信サイト「ユーストリーム」の番組。テーマは「いわきの中学生に聞く・震災1年と明日への希望」だ。
 5校の生徒会長が出演した。生徒会長たちがスタジオの正面に座り、向かってその左に司会役のジャーナリスト田原総一朗(たはらそういちろう)(79)が座った。
 生徒たちを引率してきた教師もスタジオで番組の進行を見ている。その中に文部科学省の職員がいた。被災地の復興担当になった南郷市兵(なんごういっぺい)(35)だ。
 1時間10分を超える長い番組だった。生徒会長たちは、それぞれの被災体験を話した。
 いわき市立泉中学の会長、松本莉奈(まつもとりな)(16)の順番になった。松本は各地を転々と避難した体験を話す。その途中で「私のお父さんは東京電力の社員です」と語り出した。
 父親が第一原発で働いていた。
 「原発が悪というのを聞くとすごく悲しいです。お父さんは電気を使うみんなのために働いていたのに」
 会場がしんとした。
 田原が引き取って「悪いのは経営者で、現場の社員はむしろ被害者だ」ととりなす。うながされるように松本は続けた。
 「事故の後、げっそりして帰ってきました。10日後ぐらいでした。本当につらかったんだな、と……」
 言葉が途切れる。左手のタオルで涙をぬぐった。
 松本は、父親の勤務先のことは避難先の泉中学の友達にも隠していた。田原が、この場でなぜ告白したのかを尋ねた。
 「学校でばれるのは嫌だけど、隠しているのはお父さんに失礼なんじゃないかと思いました」
 思い悩んだ末の発言だった。
 文科省職員の南郷は、その発言に心を動かされた。
 「原発事故で逆境にさらされた双葉の子は、みんな強くなっている。この子たちが将来を生き抜く力をつける学校が必要だ」
 原発事故で、第一原発に近い双葉郡の八つの町村では、8千人の小中高校生が郡外に散った。
 双葉を再び人が集える地域に戻す。そんな地元の期待を背に、15年春、県立の中高一貫校が郡内に開校する・・・

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