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政治・国際
朝日新聞社

日本国憲法の揺れる理念 「生存権」と「戦争放棄」の行方を再考する

初出:2014年4月19日、26日
WEB新書発売:2014年5月16日
朝日新聞

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 いま、日本国憲法の2つの理念が問われている。未曽有の東日本大震災でいまだ仮設住宅に暮らし、亡くなる避難民。その基本的人権、「生存権」をうたった25条は機能しているのか。また、安倍政権が突き進む集団的自衛権行使・改憲の論議で「戦争放棄」の理念が崩されそうだ。9条は骨抜きになるのか。結核患者が「健康で文化的な最低生活」を求めて法廷で闘った1957年の「朝日訴訟」や、1947年の平和憲法の誕生から今日の憲法解釈拡大に至る経緯を振り返り、日本に暮らす人々の権利と義務を再考する。

◇〈生存権〉困窮しても、人間らしく
◇〈戦争放棄〉改憲論、9条めぐり60年


〈生存権〉困窮しても、人間らしく

 隣家はもちろん、その向こうの入居者の子どもの声やテレビゲームの音まで壁伝いに響く。そんな仮設住宅に岩手県釜石市の磯田喜一さん(70)は妻と息子の3人で暮らす。4畳半2間の暮らしに「プライバシーはなく、隣を気遣う生活です」。
 岩手看護短期大学の鈴木るり子教授(65)が岩手県大槌町の住民1492人を対象に心の健康を調べたところ、仮設住宅の入居者は震災前と同じ住居の人に比べて、ストレスが多く、うつなどの問題がある人が、男性は15・4ポイント、女性は11・8ポイント高かった。
 「閉じこもりがちになり、閉塞感(へいそくかん)から仮設住宅を『独房』のようだと感じている人もいる。憲法25条にのっとった『健康で文化的な』暮らしとは、とても言えない」
 「憲法25条」とは、1947年(昭和22)年5月3日施行の日本国憲法で、基本的人権の一つ「生存権」を定めた条文だ。1項で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」、2項で「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と規定した。
    ◇
 実は25条の1項目は、当初の連合国軍総司令部(GHQ)の憲法草案や政府原案にはなかった。
 社会党国会議員で社会科学者の森戸辰男(後の広島大学長)が衆院の小委員会で、貧困や病気、けがなどで働けない場合も人間らしく生きられるよう「(生存権は)財産権と自由競争の欠陥を補うために、どうしてもなければならない」と要求して加えられた。
 広島大文書館の小池聖一教授(53)は「大正期にドイツ留学した森戸はワイマール憲法の生存権を重視していた。終戦直後の混乱期、目の前にいる貧しい人たちの生活を保障する必要を感じていた」と解説する。
 憲法に「生存権」が盛り込まれたことによって、生活保護法ができた。しかし1950年代以降、その水準が低すぎると改善を求めた「朝日訴訟」や、障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止の違憲性を訴えた「堀木訴訟」など国を相手取った裁判が相次いで起きた。
 そして今、「生存権」の観点から「住居」が大きな問題になっている。神戸大名誉教授の早川和男さん(82)は「住居はいのちの安全や健康、福祉など人間の尊厳を守る基礎。だが、生存権の考えが住宅政策など住居に生かされてこなかった」と語る。
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 1995年の阪神大震災では、死亡原因が家屋の倒壊による圧死・窒息死77%、焼死9%。「老朽化した家が多く、家が倒れなければ、出火もなく、犠牲者は少なかったはずだ・・・

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