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政治・国際
朝日新聞社

仮想敵国:中国 日本を挟んで激化する米国の「バッドガイ」封じ込め戦略

初出:2014年4月9日〜4月11日
WEB新書発売:2014年5月23日
朝日新聞

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 「人民解放軍は新たな任務を与えられた。東シナ海で日本の自衛隊を撃破するため、短期間で決定的な戦争を遂行することだ」。2014年2月中旬、米サンディエゴでのシンポジウムで、米軍情報担当大佐が言い放った――。米国が主導してきた世界の戦後秩序が、中国の台頭と膨張でゆらいでいる。米軍人たちが「バッドガイズ」という時、それはほとんどの場合「中国」を指す。緊張を増し始めた両国の関係は今後どうなるのか? 米国の戦略とそれに対する中国の姿勢は? 今後の東アジア情勢を占う必読のルポ。

◇第1章 太平洋の米軍、「敵」は中国
◇第2章 米、接近阻む中国に対抗
◇第3章 元国務長官の米中論/ジョージ・シュルツさん
◇第4章 人民元の台頭、目指すはドル
◇第5章 対「ドル覇権」、悩む中国
◇第6章 巨大市場、なびくハリウッド
◇第7章 中国マネー、映画浸透
◇第8章 対米、習外交の針路は/清華大研究院院長・閻学通氏に聞く


第1章 太平洋の米軍、「敵」は中国

 北京で2014年4月8日、米中国防相会談があった。その後の共同記者会見は、激しい言葉の応酬となった。ヘーゲル国防長官が中国の防空識別圏について、指を立てて「衝突を招く」と批判すると、常万全・国防相は領土問題で「寸分も侵犯を許さない」と語気を強めた。
 米中両首脳は「新型大国関係」の構築で合意した。だが、軍の現場では、相手を潜在的な敵とみなして紛争に備える、全く違う「大国関係」がある。
 3月末。ホノルルのヒッカム空軍基地から、最新鋭F22ステルス戦闘機5機が爆音を響かせて離陸していった。「今日は3機がバッドガイズ(敵)だ」と案内役の軍人が説明した。
 敵と味方に分かれた訓練は、敵機をかわして敵地に侵入し爆弾を投下。目標を破壊した後、空中給油を受けて帰投する。いったん着陸しても、有事と同様、エンジンをかけたまま燃料を補給し、すぐにまた飛び立っていった。
 レーダーに映らないステルス機の任務は、多様だ。敵地に入って対空レーダーをたたき、あとに続く一世代前のF15戦闘機の攻撃を助ける。ミサイル原潜と組んで、その「目」として攻撃を誘導することもある。
 パイロットは言う。
 「敵のパイロットが私の存在に気づくのは、すぐ横を飛ぶ彼の僚機がこちらの攻撃で爆発する時だ」
 公言こそしないが、アジア太平洋における米軍の「敵」は、中国にほかならない。米軍人たちが「バッドガイズ」という時、それはほとんどの場合、「中国軍」を指す。
 米軍は「A2/AD(アクセス阻止、領域拒否)」と呼ぶ中国の戦略とその能力を脅威とみている。アクセス阻止は、他国の軍を中国周辺に接近させないことを指す。領域拒否は、たとえ接近を許したとしても、作戦行動の自由を奪うことを狙う。
 「人民解放軍は新たな任務を与えられた。東シナ海で日本の自衛隊を撃破するため、短期間で決定的な戦争を遂行することだ」
 2月中旬、米国西海岸サンディエゴでのシンポジウムで、米太平洋艦隊の情報担当大佐が言い放った。
 カーライル太平洋空軍司令官が取材に応じ、大佐の発言について語った。
 「一理ある」
 米本土から遠く離れた地域でも軍事力を行使できる「戦力投射能力」(遠征、遠距離攻撃能力)が、アジア太平洋で米国の優位と影響力を支えてきた。
 その弱点を突き、中国の周辺では無力化しようというのが「A2/AD」だ。
 米側は、空海両軍を中心に4軍を一体運用する「エアシーバトル(空海戦闘)」を編み出し、立ち向かおうとしている。
 平時の熾烈(しれつ)な戦いが、アジア太平洋で繰り広げられている・・・

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