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教育・子育て
朝日新聞社

小さな離島のマンモス夢学級 人口348人・天売高校の生徒たち

初出:2014年5月8日〜5月17日
WEB新書発売:2014年5月30日
朝日新聞

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 北海道北部の日本海に浮かぶ離島・天売島(羽幌町)。人口は348人。ウミガラスやウトウなど、希少な海鳥の繁殖地として知られる周囲12キロの島だ。信号機は一カ所。子どもたちが島外に出たときに戸惑わないための教育用。島唯一の高校・天売高校には、社会人として働きながら学ぶ生徒が全部で8人いる。漁の最盛期は朝3時起きで仕事をしたり、小中学校の職員として働きながら学んだり、その生活は様々だ。過疎化が進む中、それぞれに夢を持ち、働きながら成長する若者たちの姿を追いかけた。

◇第1章 島の8人、昼は社会人
◇第2章 母校で職員、先生に認められた気分
◇第3章 昼は郵便局勤め、読書が大好き
◇第4章 漁手伝い、最盛期は3時起き
◇第5章 ダブル美咲、保育施設では先生
◇第6章 けがした足でも、懸命に荷さばき
◇第7章 「仕事する高校生、かっこいい」


第1章 島の8人、昼は社会人

 2014年4月半ば、北海道北部の日本海に浮かぶ離島・天売(てうり)島(羽幌〈はぼろ〉町)に吹く風はまだ冷たい。


 太陽が傾き出した午後4時半、ショートホームルームに続いて天売高校の授業が始まる。全校生徒は8人。全員が昼間働き、仕事を終えてから登校する。築51年になる木造平屋建て校舎の廊下は、歩くとぎしぎし音を立てる。教室では、湯を張った金だらいを載せたストーブが赤々と燃える。
 夕日が差し込む教室で、外国語指導助手(ALT)ショーン・カリガンさんと鈴木祥平教諭(26)の英語の授業が始まった。月2回島を訪れるカリガンさんの授業は、全校生徒が一緒に受ける。好きな食べ物を尋ねたり、特徴を挙げて動物名を当てるクイズを出し合ったり、簡単な日常英会話のやりとりに生徒たちから笑みがこぼれた。
 2時間目が終わると20分間の給食の時間だ。配られた小ぶりのクロワッサンなどパン5〜6個をほおばり、牛乳を流し込みながら、生徒たちは互いの教室に出入りしておしゃべりしたりスマートフォンをいじったり。


 辺りがすっかり闇に包まれた5時間目は3学年ともロングホームルーム。この日は学年ごとに1年間の目標を四字熟語に込め、筆でしたためた。3年生は「画竜点睛(がりょうてんせい)」。三浦美咲さん(17)が「よし、私『画』を書く」と真っ先に筆を握った。「いいねえ、迷いがない、すごくバランスいい」と網野美咲さん(18)が声をかける。
 続いて「竜」を書き出した野間拓海(たくみ)君(17)は、途中で手が止まって「おーっと」。書き終えると「あー、ななめった」と嘆いた。「点」は網野さん。けがの治療で島外に出て欠席した野上謙伍君(17)のために、最後の1文字は残すことにした。
 2年生は「明鏡止水(めいきょうしすい)」、1年生は「点滴穿石(てんてきせんせき)」。自分たちの学年が終わるとほかの学年の教室に行って応援する。全学年が書き終えたころ、午後8時55分の終業チャイムが鳴った。
 下校時間になると、生徒や教員が一斉に玄関に集まる。「さよならー」「お先にぃ」。先に帰宅する生徒を、部活で残る生徒や教員、校長ら全員で見送った。少人数の学校ならではの「習慣」だ。
 午後9時を回った体育館ではバドミントンと卓球の部活が始まった。でこぼこに波打つ床の四隅でヒーターがごぉーとうなるが、なかなか暖まらない。教員も交じってのフットワークや打ち合いの練習は、午後10時まで続いた。
    ◇
 生徒たちはそれぞれ、「社会人」の顔を持つ。網野さんと三浦さんは保育施設で未就学児の世話、野上謙伍君はフェリーターミナルで船の発着補助や荷物運搬に携わる。野間君と1年の野上千利(せんり)君(15)は漁業の手伝い。千利君と謙伍君は兄弟だ。2年の坂本翔(かける)君(16)は天売小中学校に公務補(職員)として勤め、萬谷佳帆(よろずやかほ)さん(16)は郵便局、1年の泉谷一貴(かずき)君(15)はフェリーターミナルにある観光案内所でそれぞれ働く。
 漁業の仕事は早朝5時から始まることもあるし、土、日曜に休めない職場もある。
 田尻勝敏校長(52)は言う。「生徒たちはつらいとか大変とかというのではなく、当たり前のこととして淡々とこなしている。そんな彼らに、きちっとした学力をつけて卒業させたいと考えています」
 3学年が全部そろうのは4年ぶりだ。4人いる3年生の担任高橋浩司教諭(28)は「マンモス学級ですよ」と笑う。だが、天売中学校には現在2年生が2人いるだけで、15年春の入学者は今のところ見込めない。中学を卒業すると島を出て進学する生徒もいるだけに、天売高校にとっては厳しい状況が続く・・・

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