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朝日新聞社

動物残酷物語 犬肉ギャングから死の動物園まで

初出:2013年2月5日〜2014年4月2日
WEB新書発売:2014年5月30日
朝日新聞

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 動物愛護や希少生物保護が叫ばれる中、人間と動物との関係の、根本からの問い直しを迫る出来事が世界中で目立つようになっている。犬食が縁起がいいとされ、犬食レストランのあるベトナムでは、犬泥棒と愛犬家との、文字通り命がけの戦いが繰り広げられている。ヒンドゥー教でゾウを神聖視するインドでは、生息地に入り込んだ人間社会との軋轢が生まれ、人間が踏み殺される事故が絶えない。インドネシアでは、人間たちのエゴのせいで、劣悪な飼育環境に置かれた動物たちが次々と死んでいく「死の動物園」がある。人間の発展と動物たちの生活は、どう両立させるべきなのか? その根本を問い直す5つの事例を報告する。

◇第1章 犬泥棒バトル激化
◇第2章 マンタ 食文化か保護か
◇第3章 鳥いっぱい ほっと一杯
◇第4章 神聖ゾウと人 衝突深刻
◇第5章 欲の果て「死の動物園」


第1章 犬泥棒バトル激化

ベトナム、食用1匹100ドルで取引
 旧暦の月末に犬の肉を食べると厄が落ちる――。そんな言い伝えが残るベトナムで、犬泥棒と愛犬家による命がけの戦いが繰り広げられている。盗んだ犬は食用に売られることが多く、「犬泥棒の厳罰化」を求める声も出始めた。


 ハノイ中心部から北東へ約40キロのバクニン。瀟洒(しょうしゃ)な邸宅が並ぶ住宅街に早朝、1発の銃声が響いた。2人組の男がバイクで現れ、庭付き3階建ての住宅の前につながれていた犬を連れ去った。飼い主で、地元の行政機関である人民委員会の職員ヒエウさん(30)が鳴き声に気づいて駆け寄ると、男たちは振り向きざまに発砲、ヒエウさんは腰を撃たれ死亡した。2012年10月下旬のことだ。
 早起きをして庭先で体操をしていた隣家のヒュウさん(50)が事件を目撃していた。「あっという間。なすすべがなかった」と振り返る。ヒュウさんも3年間で2度、犬泥棒の被害に遭っている。いずれも大型犬で、1匹は9万円した。4人の男がバイク2台でやって来て、手際よく持ち去ったという。
 周囲には番犬として犬を飼う家が多いが、盗難被害は後を絶たない。盗まれた犬の多くは食用としてレストランに持ち込まれ、一部はペットとして密売されるという。報道などによると、大型犬であれば1匹100ドル(約9千円)以上で取引されることもある。2匹売れれば、150ドルほどと言われるベトナムの一般労働者の平均の月額賃金を上回る計算だ。
 「自衛しかない」
 ヒュウさんは、犬小屋を道路に面していない奥まった場所に置き、頑丈な南京錠をつけて飼うことにした。ラブラドルレトリバーにはやや窮屈そうだ。


 エスカレートする被害に、住民の怒りは極限に達しつつある。
 バクニンの事件と同じ日の朝、南へ250キロほど離れた中部ゲアン省ギーロックでも犬泥棒が出没した。ここでは盗んだ男(23)がその場で住民に捕まり、殴る蹴るの暴行を受けた。男は重傷を負って病院に。犯行に使われたバイクは灯油をまかれ、燃やされた。
 同省では12年6月、2人の犬泥棒に住民が暴行を加え、1人を死亡させた事件もあった。同9月には、道に迷った人が犬泥棒と間違われ、住民から暴行を受ける「冤罪(えんざい)」まで起きている。
 インターネットには、「私は犬泥棒。殴ってください」とベトナム語で書かれた紙を首にかけられたうえ、路上に後ろ手で座らされ、住民に囲まれている男の映像がアップされた。警察官は「泥棒とはいえ、過剰な暴力を加えれば犯罪なのだが」と頭を抱える。
 住民が過剰な「私刑」に走る背景には、犬泥棒に対する処罰の軽さが指摘されている。殺人事件に発展すれば10年以上の禁錮刑となる場合もあるが、犬を盗んだだけならば数千円程度の罰金で済むケースがほとんどだからだ。
 ベトナムでは経済発展に伴い、犬や猫をペットとして飼う世帯が増えている。ハノイ郊外の伝統的な市場でも、解体されて無残な姿をさらす犬肉がテーブルに並ぶ一方、その脇にはかごに入れられたペット用の子犬が売られている・・・

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