【お知らせ】WEB新書は閉店しました。

政治・国際
朝日新聞社

マヤカシの集団的自衛権 行使容認・改憲議論を誘導する安倍首相の狙い

初出:2014年5月18日〜20日
WEB新書発売:2014年5月30日
朝日新聞

このエントリーをはてなブックマークに追加

 「(米国との)軍事同盟は血の同盟だ」――集団的自衛権行使容認・解釈改憲をめぐる安倍首相の一連の発言には、立憲主義を軽視する重大な欠陥があるのではないか。なぜ戦争に加担する危険性を語らないのか。想定する有事、限定容認論に説得力はあるのか。時の政権の判断で改憲し、自衛隊と国民が「血を流す」可能性にどんな国益があるのか。本当に現行憲法では「国民の命」が守れないのか。反戦平和をうたう公明党・創価学会はどう動くのか……。首相の主張のマヤカシを子細に検証し、真の狙いを解き明かす。

◇第1章 戦争加担の恐れ、語らず
◇第2章 「準有事」先行で議論誘導
◇第3章 PKO武器使用、緩和にらむ
 ・国会審議は2015年春以降に先送り
 ・自民、「政教分離」で公明党を牽制
 ・集団的自衛権めぐる創価学会の見解


第1章 戦争加担の恐れ、語らず

◎「国民の命守る」強調/従来は日米同盟に力点
 「国民の命を守る」
 安倍首相は2014年5月15日の会見でこう繰り返し、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使に向け理解を求めた。
 会見では、前日まで官邸スタッフに直接作り直しを命じたパネルを示した。そこには、赤ちゃんを抱く母親や子供らを乗せた米軍艦が戦地から日本へ避難する際、今の解釈では自衛艦が米艦を守れないと強調する概念図が描かれていた。
 集団的自衛権の行使は日本人の命に直結する――。首相はこう力を込めたが、その説明は従来とは大きく異なる。これまでは国会などで行使の必要性を説く際、「日本人の命」ではなく「米兵や米国民」を守る点を強調。示した想定例も日米同盟の絆を深めることに力点を置いていた。
 首相がその際に多用してきた事例は「米艦防護」と呼ばれる。自衛艦と共同で行動し、敵の弾道ミサイルなどに対応する米艦が敵の航空機などの攻撃を受けた時、集団的自衛権を使わなければ自衛艦が米艦を守れないとする例だ。首相は3月の国会で、米艦を守れなければ「日米同盟の関係が大きく毀損(きそん)されるのは間違いがない」と主張した。
 首相は04年出版の「この国を守る決意」(共著)でもこう説明した。「軍事同盟は血の同盟だ。今の憲法解釈のもとでは、自衛隊は米国が攻撃された時に血を流すことはない」
 首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が5月15日に首相に提出した報告書は、政府が集団的自衛権の行使を判断する基準として、日米同盟の信頼が著しく傷つき抑止力が大きく損なわれ得るか/国民の生命や権利が著しく害されるか――などを挙げた。首相が従来主張してきたように、行使を求める主張の中心は前者の日米同盟の強化にあった。
 しかし首相は会見で後者の「国民の命を守る」点ばかりを強調した。その狙いを、政府関係者は「国民にわかりやすく語りかけ、理解を得る。そこに重点を置いていた」と語る。

◎限定容認論、説得力欠く/事例、現状でも対応可能
 首相が元々唱えていた「米艦防護」や、5月15日に持ち出した「日本の避難民が乗る米艦の防護」といった事例に対しては、本当にありうる想定なのかとの疑問が出ている。
 行使容認に慎重な公明党の山口那津男代表は17日の講演で、首相が示した事例を「現実的な必要性があるのか」と指摘。従来の政府解釈で認めてきた、日本船や日本人を自衛隊が守る個別的自衛権を使えば、対応が可能との見方を示した。
 そもそも集団的自衛権とは、自らが攻撃を受けていなくても他国の戦争に加わることだ。ところが首相は、会見でその本質を隠すような発言を繰り返した。
 「憲法が集団的自衛権を含め、自衛のためなら全ての活動を許しているとは考えていない。自衛隊が武力行使を目的として他国との戦闘に参加するようなことはこれからも決してない」。この言葉をそのまま受け止めれば、集団的自衛権を行使する余地はない。
 首相が矛盾する説明を通すのは、法制懇の報告書が示した「限定的な集団的自衛権行使は許される」との考え方で、憲法解釈を変えることにこだわるからだ。
 首相は集団的自衛権の概念を、憲法で許される「限定的な行使」と、許されない「全面的行使」に分けられると唱えてきた。「限定容認論」と呼ばれるものだが、首相が示す事例がいずれも個別的自衛権で対応が可能と指摘されており、その考えに説得力はない。政府関係者は、解釈改憲ありきで走る首相の姿勢を「安全保障論の体裁を取るが、首相の狙いは『戦後レジーム(体制)からの脱却』という理念から来ている。それで国民の理解は得られるだろうか・・・

このページのトップに戻る