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文化・芸能
朝日新聞社

スマホ捨て、映画館へ行こう シネコンを凌ぐ魅惑の小屋たち

初出:2014年5月19日〜5月23日
WEB新書発売:2014年6月6日
朝日新聞

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 ミニシアターや名画座で、一般的には知られざる名画を観る。それがかっこよく見え、憧れたことはありませんか。「分かりやすい」「話題性」とは対極にあるような映画を見てもらいたいと、頑張っている映画館はまだまだ各地にあります。誰にも知られていなくても、古い映写機でフィルムがカタカタ鳴っていても、難解でよく分からなくても、ピンク映画でも、いいじゃないですか。もっと映画を、そして映画館を楽しんでみませんか。

◇第1章 ミニ・シネマ・パラダイス
◇第2章 かくも多き不在
◇第3章 復活するは我にあり
◇第4章 名画探偵登場
◇第5章 存在の耐えられるエロさ


第1章 ミニ・シネマ・パラダイス

 「チラシ小僧」を知っていますか?
 映画の宣伝チラシを求めて映画館を回る少年のことで、私もその一人だった。ハリウッドの娯楽映画を中心に集めていたのだが、モノクロの地味なチラシに引かれる。
 1977年、中学1年の時だ。東京・神保町の岩波ホールで公開された「密告の砦(とりで)」。裸の女性がたくさんの兵士の前に立っていた。「どんな映画なのだろう」。見に行く勇気はなかったが、映画館の名前は心に焼きついた。
 岩波ホールは「ミニシアター」の先駆けだ。客席数は少なく、芸術性の高い作品を継続的にかける。「密告の砦」はハンガリー映画で、砦に追い詰められた義賊たちの物語。知られざる世界の映画を発掘する「エキプ・ド・シネマ」の1本だった。総支配人を半世紀近く務めた故・高野悦子さんが74年に始めた。
 ちょうどその年に入ったのが、企画を担当する原田健秀さん(60)。現在公開中の「ワレサ 連帯の男」で216作目となる「エキプ」と同じ歴史を歩んできた。「高野は人間への信頼を基本に、映画を通して、自分と社会をみつめられるような作品を上映してきたのです」
 ラインナップはもちろん、私がすごいと思うのは、1本の上映期間をあらかじめ決めてしまう点だ。ヒットしなければ打ち切り、当たれば延長というのが現代流。だが岩波ホールは、不入りでも歯を食いしばって続け、大ヒットして「もったいない」といわれても替える。「1本の映画にとことん向き合うのが岩波ホール。このやり方は変えたくない」と原田さんはいう。
 現在の上映期間は6〜8週間。2014年5月31日に始まる自然ドキュメンタリー「みつばちの大地」は7月11日までと決めて、チラシに明記している。


 80年代の東京は、ミニシアターが次々と登場した。新宿のシネマスクエアとうきゅう、シネ・ヴィヴァン・六本木、渋谷のシネマライズ、シネスイッチ銀座などだ。
 堀越謙三さん(69)が始めたユーロスペースもその一つ。大学卒業後ドイツに渡り、旅行会社をおこした。映画が好きで、帰国後は渋谷区桜丘町で旅行業のかたわらホールでの自主上映を始めた。82年には旅行会社の2階も借りて映画館に改装。結局、こっちが本業になり、2006年にいまの円山町に移った。
 上映作品は異色だった。語学とヨーロッパの人脈を駆使し、これという才能をみつけては、作品を直接購入した。
 ドイツのビム・ベンダース、デンマークのラース・フォン・トリアー、フランスのレオス・カラックス、イランのアッバス・キアロスタミ……。「世界の映画シーンの中で、国内では欠落している部分をどうにかしたかった」
 その思いは「ユーロスペースに行けば最先端の映画が見られる」という評価に結実する。こういうところでアート映画を見ることは、だんぜんかっこよかったのだ。
 そして、ミニシアターは全国に広がる。ミニシアターや名画座を舞台に、映画館の今昔を再びたどる・・・

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