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教育・子育て
朝日新聞社

学校へ行きたくないのはおかしいですか? 不登校から見える教育の現在

初出:2014年6月3日〜6月7日
WEB新書発売:2014年7月11日
朝日新聞

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 日本では、1980年代にできたフリースクール。そこには、いじめられたり友人関係で悩んだりして、学校へ行けなくなった子どもたちが集まる。「なぜ、教室はつらい場所になったのか?」。その問いに、子どもたちが出した答えは? スクールカウンセラー、不登校対策コーディネーター、3部制高校、教員らは、問題の根源をどう捉えているのか?――こうした答えから見えてきたのは、問題解決に取り組む時間もなく、予定消化に追われる窮屈な教育現場だった。大分発、一筋縄ではいかない教育現場の今を深堀りしたノンフィクション。

◇第1章 学校に行けなくても
◇第2章 やせ細る 共感する力
◇第3章 新入生 つながれ心
◇第4章 人間関係 授業で学ぶ
◇第5章 おおらかさ失う学校


◇第1章 学校に行けなくても


◎苦しみ話せる場と仲間
  (僕なんか生まれなきゃよかったの? 傷付いた心が言う そう思わせるのが奴らの狙いだ 負けるな少年よ)

 歌手・高橋優の歌が響く大分市のコンパルホール。昨秋、不登校の児童・生徒らが通う大分市鴛野のフリースクール「ハートフルウェーブ」の活動を紹介する集会が開かれていた。
 親たち約30人が見守る中、スクリーンにはDVDが映し出された。カラーだった教室がモノクロの風景に変わり、カレンダーの日づけに次々と×印がつけられていく映像が流れた。
 いじめられたり友人関係で悩んだりしたスクールの子たちが体験をもとに自作した。教室が「つらい場所」になったことをモノクロの風景で、学校に行こうにもいけなくなった日々をカレンダーの×印で表した。

 大分市などで不登校生の家庭教師をしていた佐伯和可子(30)がスクールを始めたのは2011年。「外に出る機会がほしい」と不登校生の親から相談を受けたのがきっかけだった。
 アパートの一室には、小中高生10人ほどが通ってくる。気が向いたときにスクールにある参考書や問題集を開いたり、トランプをしたり、お菓子を食べながら談笑したりして過ごす。
 佐伯の提案で、近くの公園や祭り会場を訪れたりもする。時間割りのような決め事はない。
 「子供たちの心のリズムにあわせて過ごしています。傷を負っている子たちですから、心にエネルギーがたまるのをまつのが大事かなっと」
 昨夏、親たちの会から「スクールの様子を紹介してほしい」という希望が寄せられた。
 佐伯は、活動を撮影した写真を交えた映像作品を作った。だが「これじゃ僕らの思いは伝わらないよ、先生」。戦争映画づけの日々を送っていた中学生から「ダメだし」をもらった。
 フリースクールにたどりつくまでを紹介する作品を、生徒たち自身が作ることになった。絵コンテを書き、主演や助演、撮影係を決めていった。
 「家にこもっていたが、思い切ってスクールに通い始め、メンバーの1人と同じキーホルダーを持っていることをきっかけに仲間に溶け込んでいく」というストーリーもできた。
 制作過程では、体験を語りあっているうちに学校の記憶がよみがえり、過呼吸になる子もいた。それでも、演技指導担当の中学生は振り返って、「ああ、楽しかったあ」。佐伯は言う。
 「苦しみを話し合って乗り越え、そして作ったんです。だから大きな体験になった」

 経営学を学んでいた大学時代から、佐伯は学校経営に関心があった。国内外の学校の視察を経て、米国の私立校「サドベリー・バレー・スクール」に影響を受けた。自分のやりたいことがある生徒を、教師たちが全力で支えていた。
 「ただ、本音ではみんな学校に戻りたいんです。でもそこにはいろんな葛藤がある」
 ハートフルウェーブの子たちにとって、春の始業式は節目の一つだ。クラスが変わるのをきっかけに思い切って学校に行ったものの、佐伯に電話で「迎えに来て」と助けを求める子、校舎に張り出されたクラス替えの紙を見て戻ってくる子。心を整理して少しずつ学校に通い始める子もいる。「みんなが戻れる場としてここは続けないといけないなあと思う」

 DVDの最後に、フリースクールの卒業生たちの言葉のテロップが流れた。「毎日泣いてたけど、ここには同じ経験や思いをした人がいた。1人じゃないと思えた」「ウェーブで自分を見つけました」
 ラストのテーマ曲に選んだのはアイドルグループ「関ジャニ∞(エイト)」の歌だった。

 (生きてることが嬉しくて 何だか心が熱くなる あふれる思い無限大 永遠の仲間)

 学校に行けない子たちは、県内でも千人を超えた。若い世界で何が起き、教師や親、大人たちはどう向き合おうとしているのか。現場の声に耳を傾けた・・・

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