【お知らせ】WEB新書は閉店しました。

スポーツ
朝日新聞社

日本代表、W杯必然の敗退 かつてない期待を打ち砕いた甘さ

初出:2014年6月27日〜6月29日
WEB新書発売:2014年7月11日
朝日新聞

このエントリーをはてなブックマークに追加

 1勝もできず、1次リーグでの敗退が決まったサッカーW杯ブラジル大会。日本代表の選手たちは打ちのめされ、ザッケローニ監督は退任を決めた。これまでにないサポーターの期待を集め、「優勝」を口にする選手すらいた大会前の高揚感は、急速に冷え込み、しぼんだ。攻撃的で過去にない痛快なスタイルは、しかしながら、もろく穴があったことも見えてきている。戦術に不備は、スタイルへの過信は、事前準備の誤算は、なかったのか。

◇第1章 時間不足、ザックの誤算/少ない収集機会、クラブと差
◇第2章 「攻撃サッカー」の呪縛/相手への対応、抜け落ちた
◇第3章 疑問符残った、直前の準備/強化試合、格下ばかり・キャンプ地から長距離移動
◇日本代表23人のコメントと寸評
◇長友「次こそ結果を」/選手たち、反省や自問
◇心の管理難しい・勇気あれば差埋まる/監督会見の一問一答


第1章 時間不足、ザックの誤算/少ない収集機会、クラブと差

 2010年夏。W杯南アフリカ大会で守備的な戦術で16強入りした日本は、さらに前進するため、攻撃的なチーム作りに定評のあるザッケローニ監督に指揮を託した。選手の俊敏性と技術を生かし、連動した素早い攻撃を軸に据えた新チームが始動した。
 イタリア1部で優勝経験のある名将に期待されたことは、攻撃サッカーを磨き上げることだけではなかった。豊富な知識と経験に裏打ちされた戦い方の「引き出し」も求められた。
 監督もそれは分かっていた。「カメレオンのように試合中に柔軟に表情を変えるチームを作りたい」。臨機応変に戦えるチームをめざした。
 代名詞である3―4―3の布陣の導入に着手したのは11年1月のアジア杯優勝後だ。習熟できれば、基本の4―5―1のほかに戦術のオプションができる。
 選手は難しい動きにとまどったが、練習や試合でたびたび取り組み、監督は13年10月にも「一つだけではなく、二つの戦い方を持っていた方がいい。W杯前の準備期間で本格的に仕上げたい」と意欲を見せた。しかし、大会直前にブラジル入りした後に断念した。
 布陣に加え、交代選手の起用でも中途半端になった。選手を選び放題の代表監督には、交代選手も見すえたメンバー選考が求められる。だが、ザッケローニ監督は、先発メンバーの連係の習熟を優先して、切り札など効果的な選手交代策を積極的に試す姿勢が見られなかった。
 日本は満足に使える引き出しをつくれないままブラジルに乗り込んだ。
 第2戦のギリシャ戦が象徴的だ。前半38分にMFが退場して10人になった相手を攻めあぐねた。監督は布陣や配置変更で打開策を打てず、選手はゴール前の高い人垣にクロスを上げ続けた。監督の理想の「カメレオン」ではなく「能面」のように表情が変わらない単調な攻撃。終盤はパワープレーに頼り、交代カードを1枚残したまま、試合終了の笛が鳴った。
    ◇
 ザッケローニ監督は戦術家だ。就任以来、体の向きや選手の位置取り、スローインの練習などを細部まで突き詰めて、選手たちに「主導権を握って攻め勝つ」意識を植え付けていった。ここまではできた。ただ、劣勢時の打開策や試合運びなど柔軟に戦う策を授けることはできなかった。
 誤算があったのだろう。代表チームを率いるのは初めての経験だった。長年指揮したイタリアのクラブでできたことが、招集機会の少ない代表では困難になる。「代表というのは、思っていたよりも時間が少ない」。監督の口から何度か聞いたことがある。時間を大胆に使うことができなかった。戦術大国の監督からすると、理解力のある日本の選手ならもっと早く3―4―3が機能すると見誤った面もある。
 6月25日の会見で、こう語った。「チーム作りには相応の時間が必要。格上にも勇気を持って仕掛ける姿勢は植え付けられたと思う。足りなかった部分を新監督が次の4年間で加えてほしい」。描いた構想を任期中に仕上げられず、日本を去る・・・

このページのトップに戻る