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政治・国際
朝日新聞社

集団的自衛権の扉が開く 安倍政権、閣議決定までの水面下の攻防を検証

初出:2014年7月3日〜7月6日
WEB新書発売:2014年7月17日
朝日新聞

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 2014年7月1日、歴代政権が否定してきた「集団的自衛権」の行使容認を安倍政権が憲法解釈を変えて閣議決定した。首相の悲願達成の一歩だった。だが、その夜、自民党きっての国防のエキスパート、石破幹事長がカラオケスナックで浮かない表情をしていたのはなぜか。反対していた公明党の安保論客、山口代表が口を閉ざした理由とは何か。首相が公明党の折衝役に高村自民党副総裁を起用した訳は? さらに外務省国家安全保障局の野心とは……。自公閣議決定までの知られざる攻略・攻防の経緯を多角的に検証する。 

◇序章 憲法が骨抜きになった瞬間
◇第1章 公明党と法制局を攻略せよ
◇第2章 「限定容認論」に党内一色
◇第3章 押し切られた公明党の顔
◇第4章 国家安全保障局の野心


序章 憲法が骨抜きになった瞬間

◎与党協議の落としどころ
 首相の安倍晋三の左右にはプロンプター(原稿映写機)。安倍はそこに映し出された文字を読み続けた。
 2014年7月1日。安倍内閣は集団的自衛権を使えるよう憲法の解釈を変える閣議決定を行った。安倍の悲願だった。しかし、記者会見での様子は、気迫みなぎる表情で解釈変更の検討を表明した5月15日のときとは明らかに違っていた。拳を振り上げるようなパフォーマンスは見られなかった。
 最大の関門とされた公明党との勝負は、3週間前に終わっていた。
 6月10日午後1時すぎ、首相官邸の執務室。安倍は、自民党副総裁の高村正彦を招き入れた。
 同席した国家安全保障局長の谷内(やち)正太郎、次長の兼原信克、高見沢将林(のぶしげ)ら政権幹部が見つめる中、高村は右側に座った安倍におもむろに切り出した。
 「お願いがあります」
 記憶力が抜群の高村はメモももたずに、こう続けた。
 「公明党が、新3要件に『根底から覆される』という文言を入れてほしいと言っています。北側さんは『これで党内がまとまるかは約束できないが、私個人としては納得できる』と言っています」
 高村は前日、公明党副代表の北側一雄と東京都内でひそかに会っていた。閣議決定の根幹部分となる、武力行使のための「新3要件」について話し合うためだった。
 北側は1972年の政府見解を持ち出し、自衛の措置は「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」場合ならば認められるという内容を、新3要件に盛り込むよう提案した。この表現ならば、強い「歯止め」になると考え、公明党内を説得できる可能性があると踏んでいた。
 高村は、この提案が与党協議の落としどころになるとにらんだ。
 高村は安倍に「この文言が入っても、与党協議で話し合っている事例ができなくなることはありません」とたたみかけた。中東ペルシャ湾での機雷除去など、安倍がやりたいとこだわっている8事例の「歯止め」にはならないことを強調したのだ。
 安倍は口元を緩めた。
 「それで結構です」
 集団的自衛権を認める閣議決定の根幹となる文言が決まった瞬間だった。それは憲法が骨抜きになったことを意味した。
 交渉の出口が見えた高村が言った。「あとは、安倍さんが靖国神社に行かなければ、一番いいんですよ」。執務室が大きな笑いに包まれた。
 安倍はつぶやいた。「高村さんはこれで大政治家だ。副総裁にしておいて本当によかった」・・・

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