世相・風俗
朝日新聞社

誰が彼らを止められるのか ルポ・累犯障害者たち

初出:朝日新聞2014年5月5日〜5月8日、7月4日〜7月6日
WEB新書発売:2014年7月17日
朝日新聞

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 せっかく無罪判決を勝ち取ったのに、その直後にまた犯罪を犯してしまう累犯障害者がいる。刑法は心神喪失状態の者を罰しないが、それだけでは何度も逮捕される障害者を救えない。社会は、国は、一体どうしたら彼らを止められるのか? 弁護士、支援者、刑務所、保護観察所、グループホームなどを取材し、福祉・司法両輪での支援の可能性を探る、衝撃のノンフィクション(京都版と島根・石見版の記事を集成しました)。

◇第1章 誰も止められなかった(京都)

◇第2章 薄い罪の意識(島根)


◇第1章 誰も止められなかった(京都)


◎無罪判決後 再び自動車盗み容疑で逮捕

 司法も福祉も、止められなかった。車を盗んだとして常習累犯窃盗罪で起訴された知的障害者の男性(37)は2013年8月、心神喪失状態だったとして、無罪判決を受けた。しかし、約半年後、再び自動車盗の疑いで逮捕された。
 このとき男性を逮捕した京都市・山科署などによると――
 14年2月22日昼過ぎ、山科区の自動車販売店の作業場。男性は鍵がかかったままの黒色の軽乗用車に目をつけた。無人の敷地内に入り、車のエンジンをかけた。
 その様子を近くの休憩所にいた男性社員(22)がブラインド越しに見ていた。この社員によると、男性は車を路地へと数メートルバックさせた後、エンジンを空ぶかしさせていたという。
 男性はしばらくして車を降りた。すぐ近くに止めていた赤色の自転車に乗り、現場を去っていった。
 社員は男性と目が合った、という。しかし、男性に慌てる様子は全くなく、独り言をつぶやきながら、自転車をこいでいった。社員が慌てて確認すると、車の鍵が抜き取られていた。
 約35分後、山科署員から職務質問された男性は「やってない」。だが鍵を持っていることが確認され、緊急逮捕された。署によると「ゆっくり話せば意思疎通できた」。男性は容疑を認め、動機を語ったという。
 「自動車を見たら欲しくなる。ビデオ店に行くのに使いたくなった」



 この自動車販売店は、13年9月にも男性から自動車盗の被害にあっていた。事件を目撃した営業担当の別の男性社員(43)が当時の状況を語った。
 「自転車で展示場にやってきて、キョロキョロしていた。目を離した隙に、鍵をさしたままの軽乗用車がなくなっていた」
 この社員は、しばらくして自転車を取りに戻ってきた男性の後をつけ、尋ねた。「車とった?」。男性は「とってない。知らない」。はっきりと、そう否定した。だが後日、軽乗用車の鍵を持っていたため、窃盗容疑で逮捕された。
 社員の元に男性からはがきや手紙が何通も届いた。文字はすべてひらがなで、文脈が通らない箇所も多くあり、社員の名前も間違えている。だが、そこには反省や謝罪が記されている。
 「もうにととわるいことはしませんよくるまやさんこめんなさいゆるしてくれへんか
 くるまをのつてわるかったとはんせいやしてます にととしませんこんどからくるまをかいますよ」
 社員は思った。「一生懸命書いたんやな。もうせんといてほしい」。しかし、思いは届かなかった・・・

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誰が彼らを止められるのか ルポ・累犯障害者たち
216円(税込)

せっかく無罪判決を勝ち取ったのに、その直後にまた犯罪を犯してしまう累犯障害者がいる。刑法は心神喪失状態の者を罰しないが、それだけでは何度も逮捕される障害者を救えない。社会は、国は、一体どうしたら彼らを止められるのか? 弁護士、支援者、刑務所、保護観察所、グループホームなどを取材し、福祉・司法両輪での支援の可能性を探る、衝撃のノンフィクション(京都版と島根・石見版の記事を集成しました)。[掲載]朝日新聞(2014年5月5日〜5月8日、7月4日〜7月6日、9200字)

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