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朝日新聞社

「甲子園」だけで終わらない 元球児たちが贈る100年の夏

初出:2014年7月13日〜7月19日
WEB新書発売:2014年8月7日
朝日新聞

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 夏の高校野球全国大会が始まって、2015年で100年になる。全国で甲子園を目指す高校は毎年約4000校。これまで、数多の球児たちが甲子園を目指し、挫折し、泣いて笑って、通り過ぎて行った。そしてきょうも、やっぱり野球が好きで仕方なくて、どうにも野球から離れ難い元球児たちが、小さな白いボールを追っている。かつての自分の姿と重なる若者たちに何かを伝えたい、贈りたいと、必死に声を上げている。

◇第1章 甲子園へ、少年は海を渡った
◇第2章 ドラ1、挫折越え寄り添う側に
◇第3章 閉校…前向く勇気、新チームに
◇第4章 本気が生む一体感、女子野球に
◇第5章 仲間の意味、プロ経て染みた
◇第6章 あきらめない、教え子と夢追う
◇第7章 苦難の先、挑み続ける松坂世代


第1章 甲子園へ、少年は海を渡った

◎ブラジルから山形へ 帰りたいと泣いた日
 通りに立ち並ぶビルの至るところに緑と黄、青のブラジル国旗が掲げられていた。2014年6月21日、サンパウロ。街はサッカー・ワールドカップに沸いていた。
 約60キロ西のイビウナ市でこの日、大リーガーの卵が生まれた。日本のヤクルトの現地法人などが設立した野球アカデミー。「おめでとう」。投手コーチのチアゴ・カルデーラ(30)が、レッドソックスとマイナー契約を決めた左腕の少年(16)を抱きしめた。



 アカデミーには国内トップレベルの野球少年約20人が集う。カルデーラが伝えるのは「チームでひとつになる」ことの大切さだ。
 それは、日本の高校野球で学んだ神髄だった。
 サッカー王国でも日系人の間では野球が盛んだ。イタリア系のカルデーラはサンパウロの約500キロ北西のバストス市で養鶏業の家に生まれた。7歳のとき、「日系人の勤勉さが身につく」という父の勧めで地元の野球チームに入った。
 右腕投手になり、速球で三振をとることに夢中になった。00年、選手としてアカデミーに入った。そのころに見たのが高校野球のビデオだった。
 「コウシエン」のスタンドを埋め尽くす観客。だれも野球を見に来ないブラジルでは考えられない光景だった。「こんな大観衆の中で投げたい」
 01年春、山形県羽黒町(現・鶴岡市)。カルデーラは留学生を受け入れていた羽黒高校にやって来た。寮の4人部屋。食堂のごはんやみそ汁。慣れようと必死だった。でも言葉が分からず、会話の輪に入れない。「帰りたい」と泣いて親に電話した・・・

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