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文化・芸能
朝日新聞社

舞台でミエ切る子どもたち 歌舞伎原型「地芝居」のいま

初出:2014年9月3日〜13日
WEB新書発売:2014年9月25日
朝日新聞

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 子どもだけで役者を演じる「子ども歌舞伎」を実施する団体は、全国各地に約60ある。どこも指導者が高齢化し、後継者難の問題を抱えながらも、孫世代への伝承で復興を目指している。静岡県浜松市の北部に伝わる「横尾歌舞伎」でも、物心ついた時から歌舞伎になじんだ子どもたちが、神社奉納のための公演を目指して稽古に励む。難しいセリフ回しに苦労し、厳しい指導に涙しながら、それでも伝統を背負い、子どもたちは目を輝かせる。「歌舞伎はカッコイイ」と。

◇第1章 舞台で見得 私たちも
◇第2章 師匠の所作 見よう見まねで
◇第3章 三味線との合わせ方、わかんない
◇第4章 本番前は緊張、でも「またやろうね」
◇第5章 7年ぶりの舞、危機を救う
◇第6章 最年長、最初で最後のチャンス
◇第7章 厳しい指導「胸にズギューンと」
◇第8章 次世代にバトン 中学生の責任感


第1章 舞台で見得 私たちも

 カン、カン、カン――。
 拍子木の乾いた音が、芝居小屋となった公民館に響き渡る。満員の客は、わいわいがやがや。お弁当や酒を手に、役者の登場をいまや遅しと待っている。静岡県浜松市の北部、旧引佐(いなさ)町横尾、白岩地区に200年以上前から伝わる「横尾歌舞伎」はこんなふうに始まる。
 中学1年の氏原吉野さん(12)は、このにぎわいが大好きだ。毎年、10月の2週目の土日に開かれる公演は、地元にある二つの神社への奉納の意味が込められている。
 出演する役者から三味線、大道具、衣装からポスター製作まで。横尾歌舞伎では、全て地元の人が分担してこなす。ふだんはミカン農家だったり、サラリーマンだったりする近所のおじさんが、この日はヒーローや悪党となって舞台で立ち回り、見得(みえ)を切る。「決まった」ところで役者の名前を呼び、「花銭(はなせん)」と呼ばれる紙に包んだ小銭を舞台に投げ込むのが、「農村歌舞伎」と呼ばれるこうした芝居見物の楽しみだ。


 吉野さんも物心ついた時から、毎年の公演を欠かさず見てきた。父の弘之さん(53)は役者だけでなく、「語り」の部分を担当する義太夫や三味線、太鼓と何でもこなす。「幼稚園の頃は、役者の奇抜な化粧でいつものお父さんの顔が変わってしまったのが怖くて、大泣きしてました」
 そんな吉野さんも、歌舞伎の舞台に立つ。横尾歌舞伎には「少年団」があり、1日に三つある芝居のうち一つは、子どもだけで演じるのだ。少年団は、毎年地元の小学校などに参加を呼びかけ、5月の結団式から翌年の3月まで活動する。吉野さんは小学3年の時、同級生の野沢芽久美(めぐみ)さん(12)に誘われて入団した。
 芽久美さんは、小学1年から歌舞伎の舞台を踏んできた。3人いる兄姉も、みんな歌舞伎に出演した「歌舞伎一家」だ。姉の実果子さん(17)が出た舞台を見て「かっこよかった。お姉ちゃんだけ目立ってずるい、と思ったんです」。初舞台では「腰元」の役で、ピンク色の着物を着せられていたことしか覚えていない・・・

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