【お知らせ】WEB新書は閉店しました。

政治・国際
朝日新聞社

集団的自衛権と法の番人 内閣法制局は安倍首相の悲願とどう向き合ったのか

初出:2014年10月28日〜11月9日
WEB新書発売:2014年11月20日
朝日新聞

このエントリーをはてなブックマークに追加

 「集団的自衛権の行使は憲法上、認められない」。内閣法制局は戦後一貫して、時の内閣による解釈改憲を認めない「法の番人」だった。だが、第2次安倍政権が成立すると、流れは一気に首相の悲願達成に沿うように動いた。安倍首相はどんな政治介入を行使したのか。慣例を破って法制局に送り込まれた外務省国際法局出身の小松一郎新長官と法制局エースの横畑祐介次長らは、どんな「理屈」と「秘策」を展開したのか。そして憲法の規範は守ることができたのか――。「行使の限定容認」閣議決定までの激闘を詳細に検証する。

◇第1章 悲願に向けて2度の「使者」
◇第2章 不文律崩し、長官を政治任用
◇第3章 「憲法か国際法か」深い対立
◇第4章 エースは「理屈」に賭けた
◇第5章 「ちょっとしかできません」
◇第6章 限定容認「それでいいですよ」
◇第7章 「総理は全部やりたいのか」
◇第8章 薄皮理論「これでは狭すぎる」
◇第9章 長官OB「論理、へりくつ」
◇第10章 閣議決定、元長官の見方
◇第10章 憲法規範、整合性こだわる


第1章 悲願に向けて2度の「使者」

 自民党が政権を奪い返した2012年12月16日の総選挙の数日後。首相に返り咲きが決まった安倍晋三の「使者」が内閣法制局長官の山本庸幸(つねゆき)に接触してきた。
 「集団的自衛権の行使を認めるために、憲法解釈の変更はできるか」。使者は、山本の考えを探った。
 「従来どおり、できません」。山本はきっぱりと答えた。
 安倍にとって、集団的自衛権の行使容認は第1次内閣以来の悲願だった。その実現には、どうしても内閣法制局の壁を突き崩さなければならなかった。
 ただ、13年夏の参院選で勝利するまでは、安全運転に徹するつもりだった。数日後、第2次安倍内閣が発足、山本はそのまま長官に再任された。
 法制局は「法の番人」「内閣の法律顧問」とも呼ばれる。法律案や政令案を審査し、法制局が首を縦に振らない限り、各省庁は法律案を閣議にかけられない。
 とくに憲法9条の解釈は「法制局のレゾンデートル(存在理由)」だ。戦後一貫して「集団的自衛権の行使は憲法上、認められない」との見解を守り、歴代内閣は踏襲してきた。
 もし、自国ではなく、他国を守るための集団的自衛権を認めてしまえば、武力行使の範囲は際限なく広がり、9条が「死文化」してしまう――。11年から長官を務める山本には、こうした思いが強かった。


 山本は、安倍の「使者」に対し、憲法解釈の変更をかたくなに拒否する一方、「ミサイル以外では、できる範囲内でやれることを考えましょう」と伝えた。
 安倍が07年に設置した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)では、(1)米艦船に対する攻撃への応戦(2)米国に向かう弾道ミサイルの迎撃(3)他国部隊などへの「駆けつけ警護」(4)他国軍への後方支援――の4類型について、対応が可能か検討していた。
 山本は、(2)以外は集団的自衛権を使わなくても「現在の憲法解釈の枠内で対応できる」と協力する姿勢を見せたのだった。しかし、安倍がこだわっていたのは、あくまでも集団的自衛権の行使を認めるために憲法解釈を変えることだった。
 参院選を2カ月後に控えた13年5月。自民党の勝利を見越したかのように、安倍は行使容認に向けて水面下で動き出す。別の「使者」が再び山本に打診をした。
 憲法解釈の変更が可能かを問われた山本は前回と同様「できません」と答える。ただ、使者の口ぶりには、安倍はいよいよ動き出すのではないか、という緊迫感があった。
 山本の予感はまもなく的中することになる・・・

このページのトップに戻る