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政治・国際
朝日新聞社

TPP参加は禍根を残す 個別の国情無視する大国、利益は奪われるだけ

初出:2014年11月11日〜11月13日
WEB新書発売:2014年11月27日
朝日新聞

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 米国が主導するTPP(環太平洋経済連携協定)交渉が、またもや合意に至らなかった。なぜ交渉はうまくいかないのか。「TPP加入で輸入品が2倍増、雇用も大きく失われる。この激しい現実に、そろそろ気づいていい」「国民の生命や健康に関わる問題は、国家主権の問題だ」「交渉国の乳製品の関税をなくし、米国の多国籍企業から自国の安価な薬をまもりたい」……。マレーシア、オーストラリア、ニュージーランド3か国の立場と主張を紹介し、交渉12カ国の固別の事情と聖域を無視する大国の強引な国益優先を問う。

◇マレーシア/「年1600億円失う」衝撃
◇オーストラリア/国家脅かす賠償請求
◇ニュージーランド/大国で聖域を決めるな


〈マレーシア〉
「年1600億円失う」衝撃

 2014年7月下旬、マレーシアの首都クアラルンプール。マレー人の企業家らでつくる「マレー人経済行動委員会」のニザム・マシャル会長が、米国のフロマン通商代表部(USTR)代表と向きあった。
 「TPPに入ると、マレーシアのどの産業にどういった恩恵があるのですか」


 ニザム氏が切り出した。10年にマレーシアが交渉に加わって以来、何度も政府に尋ねた質問だが、納得できる答えが返ってきたためしはなかった。12カ国の交渉を主導する米国の責任者に、ぜひ聞いておきたかった。
◎「米、要求のませたいだけ」
 フロマン氏は、TPPのおかげで、マレーシアの輸出額は25年までに417億ドル(4・8兆円)増えるとした米研究所の試算を披露した。だが、ニザム氏は納得しない。聞きたいのは、どの産業が具体的な恩恵を受けるのか、だ。
 改めて同じ質問を投げかけた。すると、フロマン氏はこんな言葉を言った。
 「テキスタイル(繊維)」
 耳を疑った。
 繊維といえば、同じTPP交渉国で隣国ベトナムが巨大シェアを持つ輸出品じゃないか。マレーシアでは輸出の1・4%に過ぎず、ベトナムに生産拠点を移す企業も出ているほどだ。
 輸出でもうけるには、付加価値の高い工業製品の輸出を増やす必要がある。だが、この分野の米国の関税は既に十分低い。国内市場の開放など、TPP加入で払う代償に見合うとは思えなかった。「結局、米国は自国の要求をのませたいだけで、各国の事情に興味なんてないんだ」。そう思って、ニザム氏は肩を落とした。
 それから3カ月がたった14年10月下旬。マレーシアに、衝撃が走った。
 「TPP加入でマレーシアは輸入が増え毎年14億ドル(約1597億円)を失う」
 国連貿易開発会議(UNCTAD)が公表した、TPPによる関税引き下げの貿易収支への影響を分析したリポートは、フロマン氏が持ち出した試算とは正反対の結論を導き出した。
 リポートは、TPP加入で輸出が15億ドル(1711億円)増えるが、輸入はその2倍の30億ドル(3423億円)増とした。この差額が毎年、国外に流出する。
 輸入増の内訳は、自動車6億ドル(684億円)、鉄鋼5億ドル(570億円)、マレーシアの輸出の3割を占める電気機械1億ドル(114億円)。自動車と鉄鋼の増加分の9割以上は日本から、電気機械は6割が米国から来る計算だ・・・

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