社会・メディア
朝日新聞社

プロメテウスの罠〔55〕 ふるさと訴訟「戻りたくても戻れぬ理不尽」

2014年12月04日
(9500文字)
朝日新聞

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 「ばあちゃん、無念だろう」。福島県楢葉町で30代続いた古刹の住職は、避難先で亡くなった老女の骨壺を預かり、その一生を思った。原発事故さえなければ、故郷で幸せに暮らせただろうに。他日、避難先の被害者に、東電から156ページに及ぶ賠償請求書類が届いた。賠償金は1人月額10万円。交通事故の自賠責をモデルにしたという。「ふざけんな!」。一方的な東電の賠償姿勢に怒った被害者は、住職を団長に集団訴訟を起こした……。いまや原告数は全国で8千人を超える。故郷を喪失し、戻りたくても戻れぬ人たちの怒りの行動を追う。

◇第1章 防護服で戻った寺
◇第2章 絵手紙が伝える今
◇第3章 まず謝ってほしい
◇第4章 戻りたい、戻れない
◇第5章 ゆがんだ町になるね
◇第6章 「反対ばかりしてる」
◇第7章 「喪失慰謝料」求めた
◇第8章 かみ合わない議論
◇第9章 すべてを汚された
◇第10章 かけがえのない場所


第1章 防護服で戻った寺

 白い防護服姿の自身の写真が残る。
 福島県楢葉町で600年以上続く宝鏡寺の住職、早川篤雄(はやかわとくお)(74)。
 2011年6月18日朝、集合場所の福島県広野町の体育館にいた。
 4月22日に立ち入りが禁じられた楢葉町内の「警戒区域」へ、一時帰宅する約120人のうちの1人だった。


 バス6台が太平洋岸を右にみつつ国道6号を北上した。
 寺は、福島第一原発から南に約15キロの大谷(おおや)地区にあった。周辺住民がバス1台に乗り込んだ。
 久しぶりの帰宅。顔見知りの檀家(だんか)もいる。でも、みんな口数が少ない。
 早川のひざのうえには、唐草模様の風呂敷に包んだ骨つぼがあった。
 檀家の女性の遺骨だった。
 1週間ほど前に、避難先の東京で体調を壊し、77歳で亡くなった。
 一緒に暮らしていた夫から連絡を受けた。読経もなく火葬された。
 本来なら寺で読経し、墓に納めたいが、立ち入りさえままならない。
 夫から「今は狭い家なので遺骨を預かってほしい」と相談を受け、数日前にいわき駅であずかった。
 女性の一生に思いをはせた。
 戦後、貧しい農家の次男に嫁いだ。夫は仕事で海岸の砂をスコップでかきあげ馬車で運んだ。出稼ぎに出ることも多かった。自分も日銭稼ぎをして子を育てた。ようやく幸せな生活をつかんだ。
 ほがらかな人だった。
 「ばあちゃん、無念だろう」
 バスは住民を次々と降ろしていく。早川も寺の下で降ろしてもらった。
 本堂に青の靴カバーをはいたままあがる。現実感がまるでなかった。
 ご本尊の阿弥陀如来立像は避難先のいわき市のアパートの押し入れに移してあった。ご本尊が本来あるべきところの前にその遺骨を置く。
 庭は雑草が伸び放題だった。放射線量を測って数値が高いのに驚く。
 自分で30代目。寺を潰したくはない。だが、この女性のように避難先で体を壊して亡くなる人が続く。
 政府は12年8月、この地を避難指示解除準備区域にした。でも若い世代は戻るのだろうか。
 「寺が消滅するのでなく、地域が消滅する」
 原発設置取り消しを求める裁判を長く闘った。今度は集団賠償訴訟の原告団長になる・・・

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プロメテウスの罠〔55〕 ふるさと訴訟「戻りたくても戻れぬ理不尽」
216円(税込)

「ばあちゃん、無念だろう」。福島県楢葉町で30代続いた古刹の住職は、避難先で亡くなった老女の骨壺を預かり、その一生を思った。原発事故さえなければ、故郷で幸せに暮らせただろうに。他日、避難先の被害者に、東電から156ページに及ぶ賠償請求書類が届いた。賠償金は1人月額10万円。交通事故の自賠責をモデルにしたという。「ふざけんな!」。一方的な東電の賠償姿勢に怒った被害者は、住職を団長に集団訴訟を起こした……。いまや原告数は全国で8千人を超える。故郷を喪失し、戻りたくても戻れぬ人たちの怒りの行動を追う。[掲載]朝日新聞(2014年10月8日〜10月18日、9500字)

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