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教育・子育て
朝日新聞社

商店街が育てる子どもたち キラキラは下町と人情に見守られ

初出:2014年11月12日〜11月22日
WEB新書発売:2014年12月4日
朝日新聞

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 東京スカイツリーにほど近い下町に500メートルほど続く商店街がある。その名も「下町人情キラキラ橋商店街」。東京大空襲の被害を免れ、いまも昭和の雰囲気が残る。80店以上が軒を連ねるその道を近くの小中学校に通う子どもたちが駆け抜ける。遊びにスポーツに勉強にイベントに、笑ったり泣いたり、そんな子どもたちを商店街の大人たちは時には叱り、褒め、厳しく、優しく見守る。何げないふれ合いの中で成長する子どもたちの物語。

◇第1章 見守られ、叱られ、育つ
◇第2章 放課後教室でたくましく
◇第3章 コーチはご近所さん、野球好きに
◇第4章 そろばん塾、厳しいけど楽しい
◇第5章 洋菓子店の「看板娘」、店番で成長
◇第6章 心配な進学、友達と一緒なら
◇第7章 片づけ名人、率先して教室整理
◇第8章 地域の防災、手助けしたい


第1章 見守られ、叱られ、育つ

 東京スカイツリーを間近に望む東京都墨田区の「下町人情キラキラ橘商店街」。その一角にある「多ぬ喜寿司」の勝手口が午前8時1分、開いた。店を営む須藤武彦さん(45)の次男で、区立第四吾嬬(あづま)小学校3年の友晴君(9)だ。小雨が降る中、歩いて5分ほどの学校まで余裕を持って家を出た。
 6分後、三男で小学2年の隼斗(はやと)君(7)が勝手口を開けた。武彦さんから帽子をかぶせてもらって出発。しずくが落ちる軒先に傘を差し出しながら歩く間、支度中の総菜屋や八百屋のおじさんから「おはよう」と声がかかる。
 食品店の角を左に曲がると、いつも通り自宅前で子どもたちを見守る内山琴子さん(81)の姿があった。内山さんにあいさつされ、隼斗君はちょっと恥ずかしそうに「おはようございます」と返した。
 まもなく校門前。細木隆校長が登校してくるみんなにあいさつしているのが見えてきた。




     ◇
 兄弟は対照的だ。友晴君は集中力があり、宿題はコツコツとこなす。今、特に興味があるのは虫。「ほら、これ見て」と育てているコガネムシらしい幼虫を記者にも見せてくれた。
 隼斗君は好奇心旺盛で、寄り道が大好き。雪が降れば走り回り、大雨の日は水たまりにダイブ。「学校が同じ時間に終わっても、先に帰るのは友晴。隼斗は途中で猫と遊んだりしている」と武彦さん。
 兄弟の面倒をみる中学2年の長男純君(14)を含め、育ち盛りが3人いる一家。店を切り盛りする武彦さんを母と妹が支える。小学校の通学路沿いに店を構える「市川クリーニング」社長、市川清さん(47)は、そんな子どもたちを気にかける。
 2014年10月、下校途中の隼斗君が1人、工事現場の砂利を道にばらまいていたのを見つけた。「何してんだ。そんなことしたら、人が通れないじゃねえか」と叱った。あ、やばいという顔をして、砂利を1個ずつ拾い始めた隼斗君に、ほうきとちりとりを貸してやった。砂利を元の場所に戻し、シュンとして言った。「もうしません」
 市川さんは小学生のころ、クリーニング済みのシャツを近所に届ける手伝いをした。後ろに大きな荷台の付いた自転車は恥ずかしかったが、「良い子だね」とほめられ、お駄賃がもらえるのがうれしかった。受け取ると駄菓子屋に飛んで行った。
 銭湯で洗面器をボウリングのピンに見立てて並べ、滑って突っ込むボウリングごっこをしたときは、近所のおじさんに大目玉を食らった。「おっかなかったけど、悪さすれば叱ってくれる大人がいたから、今がある」と市川さんは思う。「自分もそういうおやじでありたい」
 須藤家の夕食後、友晴君がよく行くのが近所の子供服店「ぶちっくせんなりや」。目当ては、ライダーの人形など店内の数々のおもちゃだ。その店長の青山晃憲さん(41)もルールを教えている。なついてくる友晴君をくすぐりながら、「おもちゃ、ちゃんとかたせよ」。
    ◇
 総延長470メートルのキラキラ橘商店街は、食品店など85店が軒を連ね、昭和の面影が色濃い。というのも、一帯は東京の下町が焼かれた東京大空襲の被害を免れたためだ。狭い路地に木造住宅が立ち並び、防災の面で後れを取った街にはその分、濃密な人づきあいが残った。
 第四吾嬬小3年の阿部桜愛(さちか)さん(8)は1年生の時、学校から帰宅すると、いるはずのお母さんがいなかった。驚いて家を飛び出し、泣きながら商店街を走り出した。その姿を、ケーキ店「オー・デリス・ドゥ・ケンジ」を営む堀健志さん(45)が見ていた。「さち、どうした?」・・・

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