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朝日新聞社

プロメテウスの罠〔56〕 検証もんじゅ「保安規定違反の疑いがあります」

初出:朝日新聞2014年10月19日〜11月4日
WEB新書発売:2014年12月18日
朝日新聞

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 「経営層、発電所幹部が、安全を最優先とする方針を明確に示していない」。高速増殖炉「もんじゅ」を運営する日本原子力研究開発機構に「組織消滅」の黄信号が点る。2012年9月、福井県・敦賀原子力規制事務所による保安検査で、重大事故につながる点検漏れが発覚。漏れ数は約1万件に拡大した。その後も安全意識は低く、14年の検査でも手続き抜きの記録訂正が発覚。原子力規制委員会は事態を重視し、運転再開を禁じたまま……。停止中でも巨額の国費を投じる「もんじゅ」と改革途上の「機構」の実態を、検査官らの地道な活動をとおして追う。

◇第1章 点検周期「変ですね」
◇第2章 「1万件漏れ」あぜん
◇第3章 技術者、45歳の転身
◇第4章 内部調査で芋づる式
◇第5章 2カ月後やっと報告
◇第6章 当日明け方まで確認
◇第7章 点検漏れ議論なく
◇第8章 「ミスは起こりえる」
◇第9章 他省へ異例の質問状
◇第10章 工程を優先した機構
◇第11章 原子炉に響いた異音
◇第12章 闇の中での引き上げ
◇第13章 女川原発は停止した
◇第14章 津波でセンター壊滅
◇第15章 自ら希望し福島赴任
◇第16章 改革、後退している
◇第17章 失敗したら機構消滅


第1章 点検周期「変ですね」

 窓をしめきった会議室に、書類をめくる音がする。
 机の上には、原発の保守点検などを記録した数十冊のファイルが積みあげられている。
 日本海に突き出た福井県の敦賀半島。夏は観光客でにぎわう白木(しらき)海水浴場の砂浜を見下ろすように、白いドームがたつ。
 高速増殖原型炉「もんじゅ」。使用済み燃料を再処理して使う「核燃料サイクル政策」の中心施設だ。
 その建物の一室で、2012年9月、原子力安全・保安院(当時)の検査が始まった。


 敦賀原子力保安検査官事務所の所長、大林昭(おおばやしあきら)(56)は、2人の同僚と書類をよんでいた。
 検査は年4回ある。今回は記録をもとに保守・管理の状況を見る。
 9月13日。約2週間ある検査の最終日を翌日にひかえた日だった。
 隣にいた検査官の深沢幸久(ふかざわゆきひさ)(56)が声をかけてきた。「これ、変ですね」
 深沢はナトリウム漏れを感知する装置の資料を見ていた。
 ナトリウムは配管内を流れ、発熱する原子炉を冷やす役割をもつ。ただ、漏れると空気と接触して燃焼する恐れがある。このため、漏れに備える警報装置がついている。
 その装置のフィラメントとよばれる部品の点検が「2サイクル」から「3サイクル」に改められていた。
 2サイクルは28カ月に1度の点検間隔を意味する。前回点検日は09年11月だった。2サイクルのままなら次の期限は12年3月となる。
 すでに半年すぎている。
 大林は、もんじゅを運営する日本原子力研究開発機構の職員にきいた。「変更したんですか?」
 点検の周期をかえるなら、安全に問題がないことを確かめる手続きがいる。勝手に周期を長くしたなら、点検せず放置しているに等しい。
 職員は要領をえない。「詳しく調べておきます」と、ひきとった。
 記載ミスの可能性もある。このため大林は検査報告書にこう書いた。
 「フィラメントの交換を3サイクルに計画した処理が確認された。適切に処理されることを、保安調査のなかで、確認していく」
 今は問題にしないが宿題とする、ということだった。まさかその後、1万件の点検放置がみつかるとは思いもしなかった・・・

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プロメテウスの罠〔56〕 検証もんじゅ「保安規定違反の疑いがあります」
216円(税込)

「経営層、発電所幹部が、安全を最優先とする方針を明確に示していない」。高速増殖炉「もんじゅ」を運営する日本原子力研究開発機構に「組織消滅」の黄信号が点る。2012年9月、福井県・敦賀原子力規制事務所による保安検査で、重大事故につながる点検漏れが発覚。漏れ数は約1万件に拡大した。その後も安全意識は低く、14年の検査でも手続き抜きの記録訂正が発覚。原子力規制委員会は事態を重視し、運転再開を禁じたまま……。停止中でも巨額の国費を投じる「もんじゅ」と改革途上の「機構」の実態を、検査官らの地道な活動をとおして追う。 [掲載]朝日新聞(2014年10月19日〜11月4日、16500字)

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