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朝日新聞社

プロメテウスの罠〔57〕 漫画いちえふ「読み手を原発に連れて行く」

初出:朝日新聞2014年11月5日〜11月21日
WEB新書発売:2015年1月8日
朝日新聞

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 福島第一原発(1F)では事故後、高い放射線の中でどんな作業が行われているのか。知られざる現場作業員のありのままの日常を漫画で表現するや、一躍話題となり、単行本は17万部を超えるヒット作に。作者の竜田一人とは何者か。なぜ、原発作業員になったのか。一方、海外メディアも注目し、多くの読者に絶賛されるなか、「東電御用達の漫画家」「放射能を過小評価」といった批判も……。今後も1Fで働きながら「福島の現実」を描き続けるという、覆面作家の素顔を伝える。

◇第1章 覆面インタビュー
◇第2章 福島第一で汗を流す
◇第3章 仕事依頼、途絶えた
◇第4章 震災に背中を押され
◇第5章 日給8千円で原発へ
◇第6章 メヒカリ食べ、去る
◇第7章 見たまま、描こう
◇第8章 編集者の血が騒いだ
◇第9章 ダントツの新人賞
◇第10章 「福島の現実」淡々と
◇第11章 現場作業員も読んだ
◇第12章 「だから何?」批判も
◇第13章 「鼻血」答え出ない
◇第14章 仮設に響く昭和歌謡
◇第15章 あの人だったのか
◇第16章 100年後の読者のため


第1章 覆面インタビュー

 2013年9月26日夕。覆面姿の男が東京・新宿西口にある雑居ビルの貸し会議室に座っていた。
 青地に深紅の「双頭の鷲(わし)」。メキシコ出身のプロレスラー、ドス・カラスのマスクだ。
 男の向かいには、雑誌の編集者とライター、カメラマン。ライターが次々と質問を重ねる。
 「何で原発に行こうと?」
 「漫画を描いた動機は?」
 「放射能怖くなかったですか?」
 男は一つ一つ丁寧に答えた。
 彼の名は竜田一人(たつたかずと)(49)。といっても、本名ではない。名前も、顔も伏せていたのにはわけがあった。


 この6日前。竜田は東京・音羽にある講談社にいた。同社が発行する漫画雑誌「モーニング」の新人賞を受賞し、表彰式に出ていた。
 ほかの受賞者や編集者、審査員を務めた漫画家ら約40人が集まった。
 このときも覆面をズボンのポケットにしのばせていた。
 だが、香川生まれの担当編集者、篠原健一郎(しのはらけんいちろう)(32)に「逆に目立ってしまうんちゃいます?」と言われ、素顔で出席した。
 竜田が身元を明かさない理由。それは受賞作品にあった。
 「いちえふ 福島第一原子力発電所案内記」
 いちえふ(1F)は福島第一原発の略称だ。原発事故後、作業員として働き、その体験を描いた(「案内記」は後に「労働記」に変わる)。
 現場の情報を表に出すだけに、再び働けなくなるかもしれないし、雇い主に迷惑がかかるかもしれない。
 そこで考えたペンネームは、震災後、運休になったJR常磐線の竜田駅と、一人の男が原発に行って描いた、という意味で付けた。
 マスクもちょっとした遊び心から選んだ。ドス・カラスはスペイン語で「二つの顔」。原発作業員と漫画家の二つの顔を持つというわけだ。
 13年10月3日発売の「モーニング」で「いちえふ」は初めて掲載され、同じ講談社発行の週刊誌「フライデー」(10月18日号)に、新宿で受けたインタビューの記事が出た。
 マスク姿の写真は載らなかったが、「『覆面』で本誌の取材に応じた」との説明が添えられた。
 講談社には取材依頼が殺到。単行本になった「いちえふ」は17万部のヒットとなる・・・

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プロメテウスの罠〔57〕 漫画いちえふ「読み手を原発に連れて行く」
216円(税込)

福島第一原発(1F)では事故後、高い放射線の中でどんな作業が行われているのか。知られざる現場作業員のありのままの日常を漫画で表現するや、一躍話題となり、単行本は17万部を超えるヒット作に。作者の竜田一人とは何者か。なぜ、原発作業員になったのか。一方、海外メディアも注目し、多くの読者に絶賛されるなか、「東電御用達の漫画家」「放射能を過小評価」といった批判も……。今後も1Fで働きながら「福島の現実」を描き続けるという、覆面作家の素顔を伝える。 [掲載]朝日新聞(2014年11月5日〜11月21日、15100字)

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