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政治・国際
朝日新聞社

パリ・連続テロ事件は何を問いかけたか フランス式政教分離とイスラム

初出:2015年1月18日〜1月21日
WEB新書発売:2015年3月26日
朝日新聞

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 計17人が犠牲となったパリ・連続テロ事件。深い衝撃は、フランスだけでなく欧州、世界全体に広がった。「表現の自由」と「信教の自由」、「移民の苦悩」と「テロ実行犯」、「貧困・格差」と「過激思想」、「テロ対策」と「パリ行進」――この事件を機に、さまざまな矛盾に引き裂かれた欧州の現状をどう読みとくか。現地で取材する記者が多面的に分析した。

◇第1章 風刺の境界、自由の国の葛藤
◇第2章 移民と結びつける危うさ
◇第3章 景気低迷、広がる不満と闇
◇第4章 非軍事と寛容、欧州の道


風刺の境界、自由の国の葛藤

特別編集委員・冨永格


 都合5年のパリ暮らしで日々これほどのムハンマドに接したことはない。キオスクに、テレビニュースにシャルリー・エブド(2015年1月14日発行)の1面があふれる。 イスラムの色、緑を背に涙する預言者。偶像崇拝を禁じるイスラム教にすればあり得ない絵だ。欧州最多500万の在仏ムスリムには当惑している信者も多かろう。表現の自由と、個々の内心の尊重。文明が手にした二つの宝物が今、花の都でせめぎ合う。
 今回の連続テロは、シャルリー編集部を中心に17人の犠牲者と、重い宿題を残した。風刺表現の「限界」もその一つだろう。
 イスラムの教えが絶対なら、フランスの自由も筋金入りだ。教会などの権威と闘ったボルテールらの啓蒙(けいもう)思想を源流に、この国には批判精神をたたえる伝統が根づく。ユゴーらのヒューマニズムも大きい。
 そして何より、民衆が権力に対して体を張った大革命である。表現の自由を含む諸権利は、与えられたものではなく流血で勝ち得たもの。それが近代国家の範となった誇りもある。
 あらゆる宗教を権力から遠ざけるライシテ(政教分離)の思想は、民主主義と並ぶフランス社会のイロハといえる。風刺のDNAを継ぐシャルリーは、だから全宗教をネタにする。風刺に慣れたカトリックに比べイスラム社会の反発は常に激しかった。勢い、同紙もしつこく取り上げ「反イスラム色」が増した。
 くだんの1面を手がけた画家は「犯人にはユーモアが欠けていた」と嘆く。己の価値観を至上とする発言は傲慢(ごうまん)に聞こえるが、彼らが表現の限界に挑み続けてきたのも事実である。
 無論フランスとて表現の自由は無制限ではない。中傷や差別、暴力の挑発、戦争犯罪の称賛などは法で禁じられている。その限りですべてを笑い飛ばす。国民の多くは、これぞフランスのエスプリと信じる・・・

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