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政治・国際
朝日新聞社

世界で、子どもが、夢を見る 背中を押す大人、道を妨げる大人

初出:2015年1月1日〜1月15日
WEB新書発売:2015年2月12日
朝日新聞

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 世界中の子どもたちは、決して平等にチャンスは与えられていない。難民キャンプのテントで暮らす8歳、学校をやめてトラックに乗り込む13歳、「もう殺したくない」と武装勢力を抜け出す19歳、写真家を目指して世界を駆ける9歳、地方議員になった18歳、チェス世界王者を狙う13歳……。どんな立場でも、どんな状況でも、子どもたちは夢を見る。その実現を後押しして支えるのも大人なら、妨げるような状況を生み出してばかりいるのも、やはり大人。この11人の夢をあきらめさせないために、できることは何だろうか。

◇第1章 いつかクルドの先生に/難民キャンプの少女(8)
◇第2章 受験生も政治変えたい/香港占拠続けた学生(17)
◇第3章 レンズに映る、自然の異変/写真家を夢見る少年(9)
◇第4章 一人前のトラック野郎に/長距離運転手の見習い(13)
◇第5章 親子の形、決まりはない/代理出産で誕生の少年(16)
◇第6章 もう人を殺したくない/少年兵にされた若者(19)
◇第7章 地域の人のため/政治家になった青年(18)
◇第8章 五輪出場への道、信じて/アラブの空手少女(14)
◇第9章 男の子になれてよかった/性別を変えた元少女(10)
◇第10章 64マスに未来をかける/強豪国のチェス少年(13)
◇第11章 平和求め「夢は警官」/ゲリラ兵の息子(15)


第1章 いつかクルドの先生に/難民キャンプの少女(8)

 「これは、ペニビスジレッチ(鉛筆)です」
 「ペニビスジレッチ!」
 「これは、デフティル(ノート)です」
 「デフティル!」
 幅およそ4メートル、奥行き10メートルほど。仮設テントの小さな教室に、元気なクルド語のコバニ方言が響いた。
 シリア国境に近いトルコ南部スルチにあるアリンミルカン難民キャンプ。2014年11月末、鉛筆1本とノート1冊、鉛筆削り器1個の文具セットが子どもたちに配られていた。およそ3千人の難民のほとんどが、シリア北部アインアルアラブ(クルド名コバニ)から逃れてきたクルド人だ。
 フナフ・セイイットさん(8)は文具をポリ袋でていねいに包み、「自宅」のテントへ戻った。わずか12平方メートルほど、土にれんがを並べ、じゅうたんを敷いただけの一間だ。迷ったすえ、テントの幕と支柱の間に包みを差し入れた。
 「大切なものだから、なくさないようにしなきゃ」
 コバニ郊外の家は一戸建てで、自分の部屋もあった。父サリフさん(34)は井戸掘り職人。庭では乳牛4頭を飼い、オリーブとリンゴの木を植えていた。搾りたての牛乳、オリーブのピクルス、秋にはリンゴが並ぶ食卓が楽しみだった。
◎「イスラム国」を逃れ一家で避難
 だが、平和な暮らしは14年9月に一変する。過激派組織「イスラム国」が突然、攻めてきた。両親と弟3人とともに約15キロ北のトルコ国境へ急ぎ、難民キャンプに逃れた。両親の手伝いが生活の中心になった。
 午前7時過ぎ、母ファトマさん(29)と朝食の配給に並ぶ。この日は豆のスープとパンとチーズ。ボウルに入ったスープを家族でスプーンですくう。母が洗濯をする間は弟3人の世話。そして昼食の配給に並ぶ。
 食器洗いは彼女の役目だ。キャンプに3カ所だけの水場はいつも満員で、ペットボトルを持って、キャンプ外の水場まで往復約500メートルを何度も行き来する。夕食の配給にも並び、夜はマットを敷いて家族で雑魚寝。友だちと遊ぶのは1日1時間もない。ただ黙々と両親を手伝っている・・・

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