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朝日新聞社

プロメテウスの罠〔59〕 災害放送「おだがいさまFM」の苦しみ

初出:朝日新聞2014年12月12日〜12月31日
WEB新書発売:2015年2月12日
朝日新聞

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 福島県富岡町は東京電力の福島第1原発から20キロ圏内にあり、町民の3割弱は県外の46都道府県に散らばる。町には臨時災害放送局「おだがいさまFM」(放送地は郡山市内の仮設住宅)があり、住民に貴重な情報を流してきたが、震災から時間がたつ中で「いつまでも災害FMではやっていけない」と指摘されたこともある。だが、災害FMなら一部免除される音楽の著作権料なども通常局だとかかる。このFM局の3年余を見つめた。

◇第1章 避難者癒やす富岡弁
◇第2章 ふつうの町民が主役
◇第3章 そうだ、ラジオだ!
◇第4章 花開いたミニFM
◇第5章 みんな笑いたかった
◇第6章 熱意に役所が折れた
◇第7章 次々現れた救世主
◇第8章 3・11 再出発の日
◇第9章 おらもがんばっぺえ
◇第10章 特番で3年ぶり再会
◇第11章 それでも流す町民歌
◇第12章 新町長の考え変えた
◇第13章 母からもらった声で
◇第14章 ありがとう、伝えたい
◇第15章 故郷の明日みつめて
◇第16章 励まされ、語り継ぐ
◇第17章 笑い、原点から発信
◇第18章 帰れぬ町の除夜の鐘
◇第19章 ラジオの役目は続く


第1章 避難者癒やす富岡弁

 沖縄・伊良部島。
 太陽がまぶしい。2014年11月5日、最高気温は26・7度。ソーキそばを食べ終えた林貴代子(はやしきよこ)(66)は、タブレット端末のボタンを押した。
 「76・9メガヘルツでお聴きの郡山のみなさま。全国各地の避難先でお聴きのみなさま。ごきげんよう」
 なつかしい声が聞こえる。
 「今朝も寒かったです〜郡山。霜が降ったとか。フロントガラスが白くなるのも時間の問題ですね」
 福島県富岡町の臨時災害放送局「おだがいさまFM」。林は生放送に耳を傾け、思いをはせる。
 パーソナリティーは吉田恵子(よしだけいこ)。林より、ひと回り以上若い。「恵子ちゃん」と呼ぶ顔なじみだ。
 「ラジオで明るい声を聴くたび、彼女の笑顔を思い出すの」
 富岡町は東京電力福島第一原発の20キロ圏内にある。第二原発が立つ。事故後、町民1万6千人は国の指示で避難した。いまも3割弱が福島県外の46都道府県に散らばっている。
 林も、そんな一人だ。
 町立保育所の職員だった17年前、老後に住もうかと考え、夫と伊良部島に家を建てた。東電の下請け仕事を請け負っていた夫は4年前、66歳でがんで亡くなった。いま、耳が不自由な長男(43)夫婦と暮らす。
 吉田との出会いは20年前。
 長男が講師に招かれた手話教室の担当者が吉田だった。富岡町の社会福祉協議会に勤める職員だ。週1回は顔を合わせ、町でばったり会えば世間話に花を咲かせた。
 沖縄から、はるか2千キロ。富岡の家は帰還困難区域にあり、林が戻れるあてはない。結婚後40年過ごした町は「青春そのもの」だった。
 身の振り方は決まらない。「でも、富岡とはつながっていたい」
 そんな思いを支えてくれるもの。それが、おだがいさまFMだ・・・

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プロメテウスの罠〔59〕 災害放送「おだがいさまFM」の苦しみ
216円(税込)

福島県富岡町は東京電力の福島第1原発から20キロ圏内にあり、町民の3割弱は県外の46都道府県に散らばる。町には臨時災害放送局「おだがいさまFM」(放送地は郡山市内の仮設住宅)があり、住民に貴重な情報を流してきたが、震災から時間がたつ中で「いつまでも災害FMではやっていけない」と指摘されたこともある。だが、災害FMなら一部免除される音楽の著作権料なども通常局だとかかる。このFM局の3年余を見つめた。[掲載]朝日新聞(2014年12月12日〜12月31日、18600字)

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