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世相・風俗
朝日新聞社

東京のここが世界一 人々は日本のどこに惹かれたのか?

初出:2015年1月1日〜1月11日
WEB新書発売:2015年2月19日
朝日新聞

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 「日本の女性はアメージング!」「平和を当たり前に享受している日本人が、うらやましい」「政権を担う政党や政治家を、国民が自由に選べる」「日常のファッションまでかわいい」「他人が信用できて、アルバイトでも食べていける」「世界一の街」「絶品の宝の寄せ集め」……海外にルーツを持つ11人が、世界のどこにもない、東京の、そして日本の魅力を語ります。【登場人物(敬称略)】イネス・リグロン(ミス・ユニバース日本元最高責任者)、ウィニラ・アブドゥアイニ(専門学校生)、アブディラマン・オラド(早稲田大留学生)、李済華(国学院久我山高サッカー部監督)、ルボ・ジャン(NPO法人「山友会」代表)、李小牧(コラムニスト)、呉文ユウ(アパレル大手バイヤー)、モハメド・アブディン(東京外大特任助教)、藍淑人(多国籍企業社長)、オスマン・サンコン(タレント)、ピーター・フランクル(数学者)

◇第1章 〈fromフランス〉信じて、あなたは美しい
◇第2章 〈from中国・新疆ウイグル自治区〉寂しさ、吐き出していいよ
◇第3章 〈fromソマリア〉平和こそがすべてなんだ
◇第4章 〈在日韓国・朝鮮人2世〉国籍の壁越え、一つのピッチに
◇第5章 〈fromカナダ〉山谷の路地、明日も話そう
◇第6章 〈from中国〉性事も政治も自由に言える
◇第7章 〈from台湾〉かわいい日常、売りたくて
◇第8章 〈fromスーダン〉見えぬ街、目覚めさせたい
◇第9章 〈from台湾〉やりたい仕事、尽きるまで
◇第10章 〈fromギニア〉KYでいきましょう
◇第11章 〈fromハンガリー〉街の全体図を描いて


第1章 〈fromフランス〉信じて、あなたは美しい

イネス・リグロンさん/ミス・ユニバース日本元最高責任者(52歳)


 BGMの音量が下がった。「ここからはイネスのスタイリングです」。壇上のイネス・リグロン(52)に約150人の視線が集まる。白のパンツに黒の革ジャン。談笑していたイネスの顔が、一瞬で引き締まった。
 2014年12月21日、日本橋での食事付きパーティー。イネスの監修で2月、美しい所作を学ぶ女性のための養成校ができるのを記念して開かれた。
 イネスは参加者から若い女性2人を壇上に呼んだ。服装や髪形を観察する。「アクセサリーが多すぎてクリスマスツリーみたい」「リップの色で10歳年取って見える」。率直。イネスの持ち味だ。
 苦笑を浮かべてじっと立っていられない2人を、イネスは舞台裏へと連れ出した。約40分後、イネスに伴われた2人はぴんと背筋を伸ばして登場した。腰まで背中を見せたり、額を半分出したり。メイクも髪形も服装もすべて変わっていた。
 「脇役にならないで。みんな、シンデレラなのよ」。長年、美しさを通して日本人女性を見てきたイネスの思いがこもる。


 パリ生まれ。南仏モンペリエで育ち、20代でパリに美容サロンを開いた。その後、スペインや香港のファッション業界で働いた。初来日は1997年末。女性の美を競う「ミス・ユニバース」で日本の最高責任者を務めるためだ。35歳だった。
 いつか日本へ、という願いがかなった。若い頃、着物姿の女性が上品に振る舞う映像を見た。彼女たちはその一方で、シャネルの服も着こなす。そんなファッション感覚にひかれた。
 98年5月にハワイ・ホノルルで催される世界大会の日本代表選びが始まった。
 応募してきた女性は約1千人。数人の審査員と丸一日、女性を見つめた。
 5人ずつ一列に並んで審査席に向かって歩いてくる。姿勢や体のバランスを注意して見る。自己紹介での話し方、表情。知性や、内に秘めるエネルギーを探した。
 世界中の女性と仕事をしてきたイネスの目に、日本人女性はどう映ったのか。
 美しい肌や髪質、細身ながら適度な筋肉のついた体つき。他人の気持ちを推し量る心。謙譲の精神。「日本の女性は世界一になれる」
      ○ ○ ○
 短所にも気がついた。会話中に目を合わせない、意見をいわない。世界一になるために必要な個性や主張、なにより自信に欠けていた。
 候補の女性を20人ほどに絞ると、自宅での親睦会に候補者と親を招いた。候補者本人を知り、服代などの金銭的支援を頼む場でもある。
 印象に残ったことがある。ある父親に「娘さん、目がそっくりできれい」と褒めた。父親は照れたようにいった。「私に似て顔が大きくて」
 へりくだるにもほどがある。イネスには理解できなかった。
 親睦会の終盤、候補者たちは親の前で「5年後、10年後の私」を発表する。「故郷には戻らず東京で暮らしたい」「ロンドンで働きたい」。初めて聴く娘たちの本音。親たちは身をこわばらせた。泣き出す親もいた。感情を抑えられて育った女性が多いと感じていたが、自信に欠ける理由がわかった気がした・・・

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