毎年12月上旬には準備が整い、日本一早く天然雪でスキージャンプが飛べるといわれる、北海道北部の下川町。「ジャンプの小中高一貫教育」を謳う町は、1994年からスキー留学生を受け入れ、道内だけでなく、東京、京都、富山、沖縄、時には韓国からも留学生が集まる。人口3500人ほどの町の町営スキー場には、ジャンプ台が4基も並ぶ。2014年のソチ五輪を始め、7人の冬季五輪選手を育んできた下川ジャンプ少年団に学び、世界を目指して練習を続ける在校生や卒業生の姿を見つめたルポ。
◇第1章 世界見据え、ジャンプ
◇第2章 「強くなりたい」中1で故郷離れ
◇第3章 選んだ寮生活、姉に「近づきたい」
◇第4章 OBはメダリスト、「自分だって」
「いきまーす!」
真っ白な雪の中で、元気な声が響いた。北海道北部にある下川町。人口3500人ほどの町にある町営スキー場には、ジャンプ台が4基も並ぶ。「いいよ!」。コーチの合図とともに、下川ジャンプ少年団の子どもたちが空にアーチを描いた。
年末年始はジャンプシーズンのまっただ中だ。大みそかも午前中に飛び、元日も午後1時集合で練習が始まった。
「あけおめ! ことよろ!」「初詣行った?」。スキーハウスの中でにぎやかな会話が弾んだあと、伊藤克彦コーチ(48)の「今年もみんなで頑張りましょう!」を合図に、子どもたちは外へ飛び出した。
練習は着地する斜面の雪を踏み固めることから始まった。簡易型のリフト「ロープトウ」でスタート地点まで登り、未明まで降った雪をスキー板で踏み固めながら降りる。ジャンプ台のK点は8、26、40、65メートル。すべての台でこれを繰り返すと、いいウォーミングアップになる。
午後2時45分。零下8度の気温のなか、スキーウェアからジャンプスーツに着替えた団員が飛び始めた。
一番最初に宙を舞ったのは、小学3年生の津志田詩(うた)さん(9)だ。26メートルの台で、小さな体がふわりと浮いた。
ロープトウで再び台に向かうとき、竹本和也コーチ(33)の声が飛んだ。「うた、アプローチ(助走)がすごく上手。空中に出たときに、もう少し体が伸びたらもっといいな」
すぐあとに、竹本コーチの声は詩さんの姉、小5の雛(ひな)さん(11)にも向けられた。「ひな、おめでとう!」。地元で初めて挑んだ40メートルの台。練習前に同級生や中学生から誘われた雛さんは、「思ったより怖くなかった」とほほえんだ。
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ソチ五輪があった2014年2月、町は地元出身選手の活躍にわき返った。41歳だった葛西紀明選手が個人ラージヒルで銀メダル。伊東大貴選手も葛西選手とともに団体で銅メダルを獲得した。女子では伊藤有希選手が7位入賞。みんな、同じ台から世界へ羽ばたいた選手たちだ・・・