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経済・雇用
朝日新聞社

経済成長を問い直す 9人の識者が考えた「格差を拡大せずに幸福になる」道

初出:2015年1月23日、1月24日
WEB新書発売:2015年3月5日
朝日新聞

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 この20年ほどの日本では、「経済成長」は追いかけても手が届かない「逃げ水」のようだった。いつかは手が届くのか。どうすればいいのか。そもそも、成長を手に入れれば幸せになれるのか。朝日新聞社の「未来への発想委員会」の委員とゲスト、記者が交わした議論を紹介する。【発言者(敬称略、順不同)】水野和夫(日本大学教授)、藻谷浩介(日本総研主席研究員)、萱野稔人(津田塾大教授)、大竹文雄(大阪大副学長)、広井良典(千葉大教授)、待鳥聡史(京都大教授)、岩瀬大輔(ライフネット生命社長)、牧原出(東京大教授)、神里達博(大阪大特任准教授)。

◇「富の集中戦略」でいいのか
◇制度設計は現実的な予想で
◇個人消費の増加に目標絞れ
◇再分配優先し豊かさ実感を
◇「不要論」では現役世代犠牲に
◇成長もたらした「経済的自由」
◇創造する人、ほめる社会に
◇「単線的発展」時代遅れだ
◇記者も議論に参加


「富の集中戦略」でいいのか

日本大教授・水野和夫(みずのかずお)さん


 成長や進歩は近代が作り出した概念である。近代とは「より速く、より遠く、そしてより合理的に」行動すれば、成長し進歩できると固く信じる社会である。産業革命以降、世界の1人当たり成長率(生活水準)が「革命」的に上昇したのは、人類が化石燃料による動力を得て、「より速く、より遠くへ」を可能とし、20世紀の技術が、少ない投入でより多くの産出を得るよう効率性(合理性)を高めたからだ。
 「より速く、より遠くへ」は市場の拡大と生産量増大を意味し、「より合理的に」は粗利益率を改善させる。経済成長のメカニズムとは、この二つの積で表される「実物投資空間」の拡大に他ならない。
 1970年代の2度の石油危機が効率性を悪化(交易条件の悪化)させたので、ますます「より遠く、より速く」に拍車がかかった。その推進役がグローバリゼーションだった。新興5カ国「BRICS」の時代が訪れ、アフリカにまで広がった。
 それと並行して、金融工学と情報技術が一体化し「電子・金融空間」を創出した。レバレッジ(テコの原理)を高めたり金融派生商品を駆使したりして空間を膨張させたが、2008年リーマン・ショックで大収縮すると、次に証券取引所がナノ(10億分の1)秒単位の高速取引を競い始めた。
 資本主義を資本の自己増殖プロセスと定義すれば、「実物投資空間」ではもはや資本は増えない。交易条件は悪いしアフリカの先に「新しい空間」はないからである。
 資本の利潤率と国債の利回りはほぼ同じ動きをする。だから日本やドイツの10年国債利回りは1%を下回り、前人未到の領域に突入した。従来の記録は17世紀初頭のイタリア・ジェノバの1%台前半。このころ中世の地中海世界の資本主義が終わった。
 超低金利の21世紀、資本が自己増殖するのは「電子・金融空間」しかない。ここでの成果を測る尺度は「利子率」ではなく「株価」。無理につり上げても、バブルが膨らんではじける繰り返しになる。
 トマ・ピケティが「21世紀の資本」で指摘するように、身分や相続に頼らず個人の能力が発揮できる社会だったのは戦後から1970年代までのわずか30年ほどだ・・・

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